神戸からはじまる、街とシニアの楽しいプロジェクト KIITO「+クリエイティブゼミ 高齢社会編」イベントレポート
人々の交流で生まれたアイデアをもとに、デザインやアートの力で社会的な問題に取り組む。デザイン・クリエイティブセンター神戸、通称「KIITO」は、そうした活動の拠点となっています。
KIITOが近年、力を入れているのは地域や社会と高齢者をつなげる活動。「高齢社会における、人生のつくり方」をテーマにした「LIFE IS CREATIVE展」の開催(2015年10月)を皮切りに、多彩な試みに挑戦してきました。シニア男性がパンづくりに挑戦する「男・本気のパン教室」からはパンづくりの名手「パンじぃ」、タンスのこやしとなった着物を仕立て直す「大人の洋裁教室」からは得意の洋裁で服をリメイクする「洋裁マダム」が生まれ、新たな趣味や役割を楽しみ、時には若い世代へ伝える-そんな元気なシニアが多数活躍中です。
1月30日、新たな試みに向けてプレゼンテーションが行われました。タイトルは「+クリエイティブゼミ vol.26 高齢社会編 “風の人”になるための“種”の作り方を学ぶ実践ゼミpart.1 『パンじぃ、洋裁マダムにつづく、高齢者がワクワクできるプログラムを考える』」。
公募で集まった一般市民がチームを組み、この日のため、神戸に住むシニアがわくわくできるプロジェクトを考案。「ものづくり(DIY)」「音楽・ダンス」「医療」「メディア(カメラ・編集・イラスト)」「食」「観光」の6チームに分かれ、3回のゼミを通して企画を練り上げました。
参加者は学生、会社員、クリエイターなど、年代も職業もさまざま。神戸のまちづくりに興味を持っている、ゼミでの学びを通して事業を興したいなど、参加の動機も多種多様です。KIITO副センター長を務める永田宏和氏、神戸市保健福祉局・酒井竜一郎氏をはじめとする関係者に向けたプレゼンテーションに臨みます。目指すは、プロジェクトの採用です。
廃材を活用したDIYで“太鼓の逹じぃ”を養成
最初は「ものづくり(DIY)」チームの発表。廃材を用いて太鼓を制作する「オヤジたちのOnce again! 太鼓の逹じぃ」を企画しました。「つくるよろこび、かんがえるたのしさ」をテーマに太鼓の制作、演奏の練習、コンサート開催など、みんなでつくり、演奏する楽しさを盛り込みました。素材はラップやテープ類の芯として身近な紙管に注目。安価で手に入りつつ、強度も加工しやすさも兼ね備えているのがポイントです。
質疑応答では、大の沖縄好きという参加者から「エイサーのように踊りも取り入れてほしい!」との声も挙がりました。「曲目を覚えるのは難しいのでは?」との疑問には、和太鼓奏者の協力を見据えたプランで応えるなど、チームの入念な準備がうかがえます。副センター長・永田氏は「せっかくさまざまな形の紙管があるのだから太鼓に限定せず、シニアの発想に任せていろんな楽器を作ってみては」と提案しました。
ジャズ発祥の地・神戸でシニアが奏でる音色とは?
続いて登壇した「音楽・ダンス」チームの企画は「みんなでつくるKIITO Jazz Cafe」。シニアの手でジャズ喫茶を立ち上げようという、日本のジャズ発祥の地といわれる神戸ならではのアイデアです。マスター、ジャズのレコードを流す人、楽器を演奏する人、茶器を揃える人、コーヒーや軽食を提供する人など、多彩な役割を用意。ジャズに敷居の高さを感じる人も気軽に参加できる仕組みをつくりました。アマチュアバンドを招いての生演奏、「男・本気のパン教室」で腕を磨いた「パンじぃ」によるパンの提供なども目標。「ジャズのメッカとして神戸を彩りたい」というメンバーの熱意が伝わります。
副センター長・永田氏は「年齢層の異なるメンバーが集まったが、見事なチームワークで形にした」とコメント。コーヒーやパンといった既存のプロジェクトとのコラボレーション実現を目指します。
男性限定の“こっそり”ヨガで、健康寿命を延ばそう
「医療」チームが提案するのは「こっそり始める男の『ゆるブラヨガ』」。ヨガには女性向けのイメージがあるものの、“こっそり”と、手軽に取り組むことができるプログラムならシニア男性もチャレンジしやすいのでは、という発想から生まれたそう。ヒントとなったのはハンモックを用いたエアリアルヨガです。
布に体をあずけながらポーズをとるため、体への負担が少ないことで流行中のヨガですが、シニア向けの教室は多くないのが現状。公民館や公園など、どこでもレッスンができるようハンモックに代わる簡易な設備を探すことが今後の課題だといいます。質疑応答は「そもそもなぜ、ヨガを習うのは女性が多いのだろう」と喧々諤々。体をしなやかに鍛えたいという思いはシニア男性も抱いているはず。「パンじぃ」として活躍中の男性がヨガで効果を実感したという実例も挙がりました。
SNSで、YouTubeで。「好き」を表現するシニアを応援
スマートフォンの普及率はシニア世代も高まっているものの、いまひとつ使いこなせていない人が大多数。そんなリサーチ結果から「メディア(カメラ・編集・イラスト)」チームは「スマホ・タブレットと仲良くなって自分の『好き』を伝えよう」を企画しました。スマートフォンを使った映像制作で、シニアとメディアとの距離を近づけるのがねらいです。
自分史やビデオメッセージなど、誰に向け、どんなテーマで映像をつくるかは自由。複雑な機材や手間は省きつつ、クリエイターや女子高生など、スマホに慣れ親しんだ世代が講師となってサポートします。撮影、編集、上映会のほか、SNSやYouTubeを「やってみたい」シニアも応援。質疑応答の場面では「この間スマートフォンデビューしたおばあちゃんが、写真加工アプリにハマってます!」と、企画を後押しするコメントも。スキルではなく「好き」に着目した企画が好評を博しました。
男盛りはまだまだこれから! スパイスカレーで通なオトナを目指す
さまざまなアイデアやコメントが飛び交い、盛り上がるプレゼンテーションもいよいよ終盤です。次に登壇した「食」チームの企画は「スパイスから作る“男theカリー”~インド人に学ぶ~」。シニア男性がスパイスカレーづくりをマスター、ますます「男盛り」になってもらおう、という内容です。「こだわりのカレーをつくれるシニアってかっこいい!」という声が挙がりますが、スパイスカレーが「男盛り」にふさわしい理由が、もうひとつ。スパイスには認知症予防、腰痛や神経痛の緩和といった、シニアにうれしい効能がたくさんあるそうです。
実際、スパイスカレーをよく食べるインド人は認知症の発症率が低いという気になるデータも。自分好みのスパイスでつくったカレーで人気を競うイベントの開催や「パンじぃ」とのコラボレーションによるカレーパンづくりなど、夢が広がります。シニアの孤食問題、規格外野菜の廃棄といった社会問題の解決にも目を向けたこの企画。いち早くカレー文化が根づいたと言われる港町・神戸ならではのプロジェクトです。
シニアと歩く神戸に、新たな魅力を発見
プレゼンテーションのトリを務めるのは「観光」チーム。「観光を超えて、神戸という街の記憶を伝えたい~お洒落なシニアが教える神戸の街と人と伝統と~」というタイトルに、神戸の魅力を知ってほしい、たくさんの人に訪れてほしいという思いを込めました。ツアーではマニュアルに沿って街を案内するのではなく、シニア一人ひとりが行き先を決め、個性を生かしたガイドで参加者をおもてなし。運営局、ガイド先のスポットと三位一体となってつくり上げます。
事前に行ったサンプルツアーでは予算感や所要時間をチェック。昔なじみの行きつけ、歴史の香りただようエリアなど、シニアの視点で街を巡ってみることで企画に自信をつけました。「既存の神戸ツアーとの違いは?」というするどい質問には「シニアの個性を最大限、発揮することでほかにないツアーを完成させたい」と意欲を見せました。副センター長・永田氏は、参考事例として学生ガイドによるベトナムのバイクツアーを紹介。ガイドを務める人によって、街の見え方が変わる。日々、観光客が訪れる神戸も、まだまだ知られていない顔を持っていそうです。
プレゼンテーションを終えて
プレゼンテーションを終え、副センター長・永田氏、神戸市保健福祉局・酒井氏による総評が行われました。
それぞれの企画は今後のトライアルに向けてブラッシュアップされ、より多くの人の力を借りて形になっていきます。今回のプレゼンテーションには、参加者一人ひとりが周囲のシニアの顔を思い浮かべながら、あるいは未来の自分の姿を想像しながら、街とシニアの楽しい関わりを模索する姿がありました。神戸からはじまり、広がりを見せるこのプロジェクトの今後に期待が高まります。
ゼミの発起人 KIITO副センター長・永田宏和氏のインタビューはこちら