神戸・岡本の街を緑で満たす、世代を超える老舗企業とは 株式会社ウエシン
古くからの町並みを残す静かな住宅街・神戸市岡本。決して派手ではないのにどこか華やかな印象を抱くのは、家々からあふれ出すようにのぞく美しい緑のせいかもしれません。岡本にある株式会社ウエシンは、庭やエクステリアの設計・リフォーム、植栽や植木メンテナンスなどを手がける会社。長い年月をかけて背を伸ばす大木のように、昔から地元に根ざし、長年の経験と細やかな心遣いで岡本の家々、それぞれの「顔」を彩ってます。
伝統ある企業の中はというと、シニアと若手が刺激しあいながら働くアットホームな雰囲気の職場。街に愛され、多世代が溌剌 と働く会社とは、いったいどのような魅力が詰まっているのでしょうか。親子二代で会社の屋台骨を支える松田真一会長、松田真哉社長のほか、シニア世代や若手社員の声をお届けします。
- 株式会社ウエシン
伝統的な技術を生かした造園・エクステリアの設計・施工・管理のほか、庭や樹木のメンテナンスをはじめとした幅広い“グリーンライフ”を提案。「住む人、使う人、見る人、通る人にやすらぎを」をモットーに、街の景観を尊重しつつ、顧客それぞれの要望に親身に応えている。
住む人も、道行く人もささやかな幸せを見つけられる庭づくり
このあたりを歩いてみると、どの家にも緑が茂っていて気持ちがいいですね。こうした庭づくりにおいてたくさんの顧客を抱える御社ですが、最も大切にしていることは何でしょうか。
松田真哉
お客さまのご要望に添うことはもちろん、どこにどんな植物を植えたら見栄えがよいのか、限られた予算やスペースの中で柔軟にご提案します。でも、そうした提案は当たり前のこと。ここ岡本で長年商売をしている私たちがいつも配慮しているのは「外の目」です。
家に住む人以外も考慮して庭をつくるということですか?
松田真哉
岡本は歴史のある街です。ここで育った私もひしひしと感じることですが、神戸市の風致地区※に指定されていることもあり、みなさん景観の意識が高いんですね。街を美しく保ち続けよう、訪れる人の目を楽しませようというような。
※風致地区=良好な自然的景観の維持を図るため、建築物の新築・改築などに一定の規制が設けられている地域地区
だからたとえば、普通は境界線いっぱいまで塀やフェンスを設けるところを少し手前にとどめる提案をしたりします。その隙間に緑を植えることで、外にも気を配るんですね。通りかかった人が「きれいな花が咲いていますね」と家主に声をかければ、ちょっとうれしく感じたり、地域の中で新たなつながりが生まれたりするかもしれませんよね。そんなことを考えながら、仕事を通して地域の架け橋になろうとしています。
伝統といえば、御社にも四世代にわたる長い歴史がありますね。会社が長きにわたって顧客の信頼を集める秘訣は何でしょうか。
松田真哉
伝統を守りつつ、去年より、昨日より「ひと味違う」と思われるような、新しさを求める会社でありたいというのが私たちの考えです。植木の剪定など、毎年お客さまのもとに伺う仕事も去年より良くしようという姿勢が仕事の一つひとつに表れているはずです。
御社では、シニア世代と若手社員の双方が活躍中です。
松田真哉
剪定やパースなど、ベテラン社員の高い技術を若手が間近で学べることが社員育成によい環境だと実感しています。反対に、シニア世代の社員は若手から刺激をもらえるし、毎日行くべき場所があり、お客さまに「ありがとう」と言ってもらえることも、働く喜びにつながるのではないかと思います。
私自身も、幼いころから祖母や父の働く姿を見て育ちました。家では寡黙な父が仕事の話となると楽しそうに話してくれましたし、未だ現役の父から学ぶことがたくさんあります。
幼いころから家業を目にしていたから、後を継ぐことが自然だったのですね。
松田真哉
いえ、実は会社を継ぐ気はあまりなかったんです。でも学生時代、長期休みに入るとアルバイトとして剪定を手伝ったりしていました。すると「これは俺が作ったんだ」と達成感がこみ上げるんです。「自分で図面を描いて形になったらどうだろう」と、この仕事の面白さに気がつきました。大学卒業後、両親に頭を下げて専門学校へ進み、あらためて建築を学んだんです。
たしかに、どの施工例を見ても「庭づくりってクリエイティブなんだな」と感じさせるすてきな空間ばかりです。最後に、御社の展望を教えてください。
松田真哉
私たちの守備範囲外であっても、まずは「ウエシンに相談しよう」と思っていただける身近な存在であり続けたいですね。家のことなら何でも相談できる、頼りになる会社だと感じていただきたいのです。
また、業界では技術を持つ職方がどんどんリタイアしてしまっている中、ベテランのシニア世代にも、若い方にも門戸を開いて事業を継承していくのが大切だと感じています。
祖父の植えた木を今も手入れする、顧客との長く確かな信頼関係
祖父や父の思いを受け継ぎ、ウエシンを立ち上げた松田真一会長にもお話を伺いました。
御社は会長の祖父による庭造業がはじまりとお聞きしました。家業にまつわる子ども時代の思い出はありますか?
松田真一
登下校中によく見た、ハッピを着て近所の庭を手入れする祖父や父の姿が心に残っています。サラリーマン家庭の同級生と比べて「ちょっと恥ずかしいな」と思っていた時期もありましたね。
息子と同じく私も、学生のころに家業を継ぐ気持ちはなかったものの、ふとしたきっかけから大学で造園を学び、45歳でウエシンを興すこととなりました。屋号は、庭造業だったころの「植眞」を時代に合わせてカタカナ表記にしたもの。イメージは新しく、会社の心はそのままにスタートさせました。「あなたのおじいさんがこの木を植えたのよ」という昔なじみのお客さまも多いですから、祖父から続く、地域に根ざしていた家業を今も大事に守っているという思いです。
社員のみなさんが「会長の提案はスピーディーで迷いがない」と語っていました。
松田真一
ウエシンを立ち上げる前は住宅会社に勤め、設計を担当していました。支社の案件を一手に引き受けていましたから、そこで鍛えられましたよ。当時は手描きのパースが主流だったので、お客さまが完成図をイメージしやすいよう施工例を持ち歩くなど、工夫も重ねました。今の仕事にも大いに生きているでしょうね。
長きにわたる顧客との信頼関係はどのように育まれたものでしょうか。
松田真一
長いお付き合いのお客さまだからこそ、気をゆるめず前回以上の仕上がりや満足を目指しています。金額面など、お客さまの疑問に根拠のある数字や説明でお応えするのも、いつも心がけていることです。
また、植木は生き物ですから短期間で枯れてしまうこともあります。そんな時、代わりに持ってきた木が前より小ぶりだったらお客さまはどう思うでしょう? 植木は大きければよいというものではありませんが、お客さまの気持ちを汲むと「前よりちょっと背の高いのを持って行こか」となるわけです。
世代を超えて刺激しあう職場づくりの秘訣
御年72歳、最年長のベテラン社員・鈴木康博さん、昨年入社したばかりのニューフェイス・舩村佳織さんに、ウエシンの職場環境についてお聞きしました。
鈴木さんの仕事内容について教えてください。
鈴木
私は長らく設計や現場管理を担当し、さまざまな施工を経験してきました。今は主に積算業務を行っていますが、この仕事の魅力はものを作る喜び、お客さまの反応を直に見られる喜びの両方があることですね。
一番のベテラン社員である鈴木さんから見た、御社の魅力を教えてください。
鈴木
社員一人ひとりの適性を見定めつつ、やりたいことを任せてもらえるところが当社の大きな魅力だと思います。私が入社したのは、以前同僚として働いていた会長からのお声がけがきっかけ。一緒に働く中で育んだ信頼関係がありましたから「ウエシンで頑張ろう」と決心できました。今は幅広い世代の社員が活躍中で、アットホームな雰囲気ですから居心地もよいですよ。
舩村さんの仕事内容を教えてください。
舩村
今は、会長や社長をはじめとした先輩社員と一緒に現場へ向かったり、CADを使って作図したりと、いろいろな仕事にチャレンジしているところです。
経験豊富な先輩社員から学び、時にはサポートしているのですね。シニア世代の方とともに働く魅力を感じる場面はありますか?
舩村
仕事の段取りを決める早さ、お客さまへの提案の的確さ、発想力など「さすが長年の経験!」と勉強になることが多いですね。経験が確かな自信を育てるのだと、私も日々、修業中です。
また、私は入社後、樹木医の試験に合格することができました。社員のやりたいことを応援してくれる風土があると感じています。
長い歴史を持ち、地元の顧客を数多く抱える企業でありながら「あぐらをかいてはだめ、昨日より今日、今日より明日」と、謙虚な姿勢で庭づくりに臨むウエシン。社員の誰もがその気持ちを忘れないからこそ、顧客から揺るぎない信頼が寄せられています。岡本では、明日も変わらぬ美しい風景が住まう人、訪れる人の記憶を彩り続けます。