ハッタリと忖度で周囲を混乱させる老年フィクサーの喜劇 リチャード・ギア主演映画『嘘はフィクサーのはじまり』
人気俳優リチャード・ギアが有名人に取り入ろうとする老年の男性を演じるブラックな喜劇『嘘はフィクサーのはじまり』。ハンサムでモテ男を演じることが多かったギアが、誰かの役に立つことに必死の男を演じますが、相手が大物だったり、大それたことばかりなために大変なことになってしまう……。実に滑稽なのですが、ちょっと切なくなる作品です。
物語
ニューヨークに住む自称フィクサーのノーマン(リチャード・ギア)は、上流階級に食い込もうとしていました。街でイスラエルの政治家エシェル(リオル・アシュケナージ)を見かけた彼は、彼に取り入ろうとします。お世辞を言ったり、靴をプレゼントしたりして電話番号を手に入れることに成功! しかし、エシェルの側近が怪しんで、ノーマンはシャットアウトされてしいまいます。3年後、なんとエシェルはイスラエルの大統領に! そしてパーティに潜入したノーマンを見て「わが友人!」と認めてくれたのです。得意げなノーマンですが、その後、大変なことに……。
うさん臭いけど嫌いになれないノーマンの魅力
フィクサーというとなんとなく、陰で暗躍し、どんな手を使っても問題を解決する凄腕、キレる人物というイメージ。しかし、ノーマンは、そうなりたいけど、なりきれない男。親しみやすく話しやすく、愛嬌もありますが、フィクサーに必要な鋭さがない。だから、エシェルの側近に怪しまれてしまうのです。
ノーマンの場合は、有名になってやるという野心、金持ちになってやるという欲があるわけではなく、誰かに必要とされる人物になりたいのです。責任ある案件を任され「この人にとって自分は重要な人物だ」と思われたいのでしょう。そこに自分の価値を見出したいのです。おそらく、彼らと公に仕事ができるような学が彼にはない。だから、裏で自身の人脈を駆使して役に立てるように必死に動き回るのです。でも、その姿はときどき切なくて……。
見切り発車OK!? ノーマンのビジネス
リチャード・ギアはノーマンについてこう語っています。
「ノーマンは自分が何かを提供しないと、相手にしてもらえないことを知っているんだ。どんなビジネスの現場でも“何か私にできることがあれば”と近づいてくる人物はいるだろう。“自分はこんなことができます!”と大口たたいて。ノーマンはそうやって自分を価値ある男だと見せようとするんだ。彼は子供っぽいところがあるから、小さな嘘やハッタリでも、話しているうちに、それが現実にできるものだと思い込んでいくのだろう」
実に的確なギアのノーマン評! 普通はノーマンくらいのシニアになれば、自分が実現できることなのかとコトが大きいほど慎重になりますし、経験値があるので、可能かどうかの見通しが立つものです。しかし、ノーマンにはそれがない。彼は見切り発車OKな男なので、結局、収拾付かなくなり、彼を信じた人から「どうなっているんだ!」と追いつめられたり、首相の息子の裏口入学に手をまわして騒動を起こすことになるのです。
老いても夢を見られる幸福
おそらくノーマンは、これまで何度も裏切られたり、縁を切られたりしてきたかもしれません。でも彼のすごいところは負けないところ。何があってもまた起き上がれる逞しさがあるのです。彼に隠居生活はなく、一生、現役のフィクサーでしょう。彼はスリリングなこの仕事が好きで、ターゲットが手強い大物ほど燃えるのです。
「あなたのおかげで素晴らしい結果になった」「あなたは自分にとってかけがえのない人だ」多くの人から、そんな風に思われる日を夢見て、裏の仕事に没頭するノーマン。第三者から見ると、切ないけれど、本人はとても幸福なのかもしれません。