アルゼンチンからポーランドへ。88歳のユダヤ人のおじいさんの感動ロードムービー『家へ帰ろう』
映画『家へ帰ろう』は、88歳の仕立て屋の男性が、70年ぶりにお世話になった友人に会いにアルゼンチンからポーランドへ向かうロードムービーです。しかし、その旅は一筋縄ではいきません。彼はユダヤ人であり、戦争中の過酷な体験の怒りと悲しみがまだ癒えていないからです。この旅はどうなってしまうのか……、友人に会えるのか。ヒヤヒヤしながらも彼を助ける人々との交流に心が温かくなる感動作です。
物語
アルゼンチンに暮らすユダヤ人の仕立て屋アブラハム(ミゲル・アンヘル・ソラ)は、老人ホームに入ることが決まっていました。ところが彼は1着のスーツを70年以上会っていない友人に渡したいとポーランドへの旅を決意します。家族に内緒で、家を抜け出した彼は、マドリッド~パリ~ポーランドというルートを選びます。ドイツを通過するルートは絶対に嫌だと頑ななアルブラハム。ホロコーストから逃げた彼は、そのときの辛さが忘れられないのです。実は戦時中、逃げた彼をかくまってくれたのが、彼が会いに行こうとしている、ポーランドに住む友人だったのです。
頑固なおじいさんを支える人々の温かさ
老年のアブラハムは、ホロコーストで傷つけられた片足をひきずりながら、たったひとりでポーランドへと向かいます。彼の旅は決してたやすいものではありませんが、彼にはユーモアがあり、ちゃっかりしたところもありました。ホテルの宿泊代を値切ったり、飛行機の狭い座席を3つ確保するために隣席の人にずっと話しかけてうんざりさせて移動してもらったり……。けっこう困ったおじいちゃんですが、愛嬌があって憎めないんです。
おまけに88歳にして、ホテルの女性スタッフを口説く度胸もあります! 結局軽くスルーされますが、その女性はアブラハムのことを気にかけて、何かと世話をやいてくれたり、ほかにも駅で知り合ったドイツ人の女性が助けてくれるなど、道中、知り合う人が彼に手を差し伸べます。そうしたくなる魅力がアブラハムにはあるのです。
悲劇的な過去が道中フラッシュバック!
本作は、アブラハムのキャラのおかげで、前半はユーモアたっぷりに綴られていきますが、ポーランドが近づくにつれ、戦時中の過去がたびたび回想されます。友人との出会いや彼に助けられたときのことは、アブラハムの中で温かな思い出として生きていますが、ナチに苦しめれたときの恐怖は今でも逃げ出したくなるほど辛い過去として描かれます。いつの時代もどの国においても、戦争の傷は人々の体にも心にも深い傷を残すことが、アブラハムの表情と行動が物語っています。
パブロ・ソラルス監督の実話を基にした物語
映画『家へ帰ろう』は、ソラルス監督のおじいさんのエピソードやカフェで知り合った老人のエピソードなどを集めて作り上げた物語です。監督は、戦争を生き抜いた人間の苦しみと生きる喜び、そして厳しい時代に築き上げた人間関係はゆるぎないことをアブラハムのキャラクターを通して伝えているのです。
ソラルス監督は、この物語を完成させるためにカフェで知り合ったおじいさんの故郷へ行き、親戚を探し出し、多くのエピソードを聞いたそうです。
「この映画では、おじいさんが子供の頃からずっと触れてきた苦痛と憎しみ、そして恐怖に満ちた声や音楽をイメージで埋めていこうと思いました。しかし、私はこれらの出来事を自問し、彼らが経験した感情と向き合う難しさ感じましたね」
アブラハムの苦しい過去を、当時を知らない監督がリアルに描くのは難しいでしょう。けれど本作は、過去のイメージによる回想を随所に挿入し、実にうまく描いています。アブラハムの脳内にこびりついているホロコーストの恐怖と友人との美しい思い出は観客にしっかりと伝わります。
70年ぶりの再会は果たせるのか。友人は生きているのか。最後は号泣必至! アブラハム88歳、人生最後の旅の行方をぜひ映画館で見届けてください。
映画『家へ帰ろう』
公開日
2018年12月22日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
スタッフ・キャスト
監督:パブロ・ソラルス
出演:ミゲル・アンヘラ・ソラ、アンヘラ・モリーナ、オルガ・ボラス、ユリア・ベアホルト、マルティン・ピロヤンスキー
© 2016 HERNÁNDEZ y FERNÁNDEZ Producciones cinematograficas S.L., TORNASOL FILMS, S.A RESCATE PRODUCCIONES A.I.E., ZAMPA AUDIOVISUAL, S.L., HADDOCK FILMS, PATAGONIK FILM GROUP S.A