映画『35年目のラブレター』で夫婦を演じた笑福亭鶴瓶さん&原田知世さんが語る“自分の年齢を受け入れ自由に楽しみながら生きるコツ”

映画『35年目のラブレター』で初共演した笑福亭鶴瓶さんと原田知世さん。いつも笑顔で周囲をやさしさと笑いで包んでくれる鶴瓶さんと、透明感を失わない美しさが素敵な原田知世さん。映画の話から年を重ねて感じることや人生についてお話を伺いました。
- 笑福亭鶴瓶
1951年12月23日生まれ、大阪府出身。1972年、六代目笑福亭松鶴に入門。数多くのテレビ番組に出演しながら、俳優として『べっぴんの町』(89)、『母べえ』(2008)、『夢売るふたり』(2012)などの映画作品に出演。『ディア・ドクター』(2009)、『おとうと』(2010)、『閉鎖病棟–それぞれの朝–』(2019)では日本アカデミー賞優秀主演男優賞受賞。『ふしぎな岬の物語』(2014)では日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。近年の主な映画作品『99.9 –刑事専門弁護士– THE MOVIE』(21)、『七人の秘書』(22)、『あまろっく』(24)。
- 原田知世
1967年11月28日生まれ、長崎県出身。1983年、映画『時をかける少女』でスクリーンデビュー。以降、多数の映画、ドラマに出演、ドキュメンタリー番組などのナレーションを担当するなど幅広く活躍。また歌手として、鈴木慶一、 トーレ・ヨハンソン、伊藤ゴローなどさまざまなアーティストとコラボレーションしている。主な出演作『落下する夕方』(1998)、『サヨナラCOLOR』(2005)、『紙屋悦子の青春』(2006)、『しあわせのパン』(2012)近年では『星の子』(2020)、『砕け散るところを見せてあげる』(2021)、『あなたの番です 劇場版』(2021)などがある。
65歳から読み書きの勉強を始めた主人公と妻の実話
『35年目のラブレター』は、貧しい家に生まれ、学校に行かせてもらえず、文字の読み書きができないまま大人になった西畑保(笑福亭鶴瓶)と妻・皎子(きょうこ/原田知世)の物語。65歳を超えてから読み書きの勉強をし始めた保が皎子に書いたラブレターとは……。とても温かくて胸に優しさがじんわりと染み渡る作品です。

この映画で実在の夫婦を演じた笑福亭鶴瓶さんと原田知世さんに、まず映画について話を聞きました。
とても美しい夫婦の物語で、愛の深さにしみじみ感動しました。最初に出演依頼が来たときのことから教えてください。
笑福亭鶴瓶さん(以下、鶴瓶)
この物語は、弟子の笑福亭鉄瓶が西畑さんの実話をもとにノンフィクション落語として創作したんです。まさかその実話の映画化で、西畑さんの役が自分に来るとは……。僕も驚いたけれど、鉄瓶もびっくりしてました。
原田知世さん(以下、原田)
脚本を読み終えた時、感動で涙が止まりませんでした。これが実話であることに驚きましたし、より深く胸に響いて。純粋にこの映画を観たい。そう思える作品に巡り会えたこと、声をかけてもらえたことが本当にうれしかったです。また鶴瓶さんが西畑さんを演じられると伺って、鶴瓶さんと共演させていただける貴重な経験になると思い“ぜひお願いします”とお答えしました。
鶴瓶さんは皎子役が原田知世さんと聞いて、喜んだと聞いています。
鶴瓶
とてもうれしかったです(笑)。原田さんは佇まいが自然で、どんな場面でもピタッとはまるんですよ。普通の生活を大切にしている方なので、一緒にいても緊張しないし、とても演じやすかったです。
撮影もスムーズだったのですね。
鶴瓶
そうですね。特に最初の家のシーンは、もうほぼ自分の実家のようでした。昔ながらの日本の家屋。最近は見かけないタイプの家だけど、昔はああいう家が普通やったんです。奈良でロケしたのですが、スタッフはよく見つけたなと思いました。
原田
日本家屋は落ち着きますよね。
鶴瓶
撮影する場所は、映画全体を左右する大きな役割を担っているからロケーションは大事です。ロケーションにも映画賞を与えてあげてほしいくらい。そういう賞があったら今回の奈良県のロケ地は必ず受賞すると思う。それくらい大きな存在でした。
自然体で役に入っていった鶴瓶さんと原田さん

原田さんが演じる皎子さんは、実際にお会いしてお話を聞いたりできなかったと思うのですが、そういう中でキャラクターを作り上げていくのは難しくなかったのでしょうか?
原田
保さんと違って、皎子さんは資料がないんです。この映画の皎子さんは、塚本監督が原作の本や西畑さんのお話から作り上げたキャラクター。だからこそ、自由に演じてくださいとおっしゃってくださいました。
私はセリフと関西弁のイントネーションだけを頭に入れて、あとは西畑保さんを演じる鶴瓶さんの横で、皎子さんがそうしたように保さんを見つめる日々を過ごしていました。それがこの映画には大切だと思いましたし、撮影初日から寄り添えている感覚があったので、役作りを考えることはあまりなかったですね。
西畑さんを温かい目で見続ける皎子さんの人生を生きたんですね。
原田
自分でも初めての感覚で、撮影が終わったとき、本当に保さんと人生を共にしたような……とても幸せな経験でした。
鶴瓶
原田さんの関西弁がいいんですよ。関西の威勢のいいおばちゃんの関西弁とは違うんです。とても穏やかな関西弁。人柄が出ると改めて思いましたね。
鶴瓶さんは西畑さんとお会いになったそうですが、役作りの参考になりましたか?
鶴瓶
西畑さんは撮影によく来てはりました。でもご本人に会っても、役作りの参考にはしてないです。映画を見る皆さんは本当の西畑さんに会ってないからご本人を知らない。西畑さんの話し方などを芝居に取り入れても、わからへんと思うんです。
確かにそうかもしれません。
原田
西畑さんは早朝から撮影を見学にいらして……。うれしくて仕方がなかったんでしょうね。
鶴瓶
そら、自分が主人公の映画が出来上がっていく過程を見るんやから、楽しかったやろうなあ。
鶴瓶さんは監督と俳優の皆さんとでキャラクターを作り上げていくのですか?西畑さんの役、鶴瓶さんピッタリで役に溶け込んでいました。
鶴瓶
役作りはしたことないです。号泣シーンは、ほんまに号泣。なんか知らんけど嗚咽していました。演技で嗚咽しているのではなく、ほんまなんです。気持ちを呼び起こしたからこそ、ああいう号泣シーンになったんじゃないかと思いますね。
常にビビりながら落語に挑む(鶴瓶)

映画の中で、西畑さんは65歳過ぎてから読み書きの勉強を始めます。還暦すぎて何かをスタートすることはすごいなと思うのですが、鶴瓶さんと原田さんは、最近、何か始められたことはありますか?
鶴瓶
改めて始めたと言うのではなく、もうずっと落語ですよ。落語は終わらないんです。次のネタが来たら、またゼロからのスタートなんです。
ひとつの古典がある、これをやろうと自分で決めるんですけど、これがまた手強い。年齢的なこともあるけれど、言葉が入ってこないときがある。今はもう言葉が入ったから言えるけれど、入っていないときだったら、怖くて人に話せない。それくらい研ぎ澄ましてやっています。きっちりやらなあかんと思うからこそ、余計にしんどい。落語家が落語をやっつけるには、本人の覚悟と度量が必要です。鈍くなったと思うけれど、やっぱり落語は面白いですね。
鶴瓶さんの年齢だからこそだせる落語の味があるのでは?
鶴瓶
でもそれに甘えてはダメです。毎回ビビらないと。怒ってくれる人がいないから自分に厳しくしとかんとダメなんですよ。
ゴルフで自分の“のびしろ”を感じる喜び(原田)

原田さんは新たに始めたことはありますか?
原田
私はゴルフですね。青空の中、自然の中を歩きながらプレーするのが楽しくて。健康にもいいとは思うんですけど、とにかく楽しいんです。少しずつ上手になっているかな……と思ったり、自分の“のびしろ”を感じたり。体と対話しながらできることがすごくいいなと思います。
鶴瓶
僕は30年以上、ゴルフやっている。
原田
すごいですね。
鶴瓶
嫁と始めたんです。そしたら嫁がどんどん上手くなっていくんですよ。でも嫁は友達ともゴルフに行っているから、僕とはやっている回数が違うんで上手くなるわけですよ。でも “プレーする回数がちゃうやんか”とは口が裂けても言えません(笑)それ言っちゃうと絶対に揉めるから(笑)
原田
私は姉と始めました。姉と一緒だから頑張れるのかもしれません。ひとりだったら挫けちゃうかも。
どんな人間も老いる。その老いを受け止め楽しむこと!

読者は60代の方も多く、老いることの怖さを感じ始める時期でもあります。でもこの映画を見ると、何かを始めるのに年齢は関係ないと思えますし、おふたりからも充実した人生を感じます。そこで、年齢を重ねることの素晴らしさについて読者にメッセージをいただけないでしょうか?
鶴瓶
昨日、墓参りに行ったんですよ。師匠の笑福亭松鶴の。墓が7代目まであって、他にも落語に関係するお墓もあるんで、お供えの花を16束くらい持って行きました。お寺の石畳が古く隙間もあって、危ないと思ったら、足がすぽっと入ってもうて、足を抜いたら靴が挟まって……。30年以上、毎月来ているのに、こんなん初めで、なんでやと笑ってしまった。年を取るとできていたことができなくなるってことがあるんですよ。でもそれを笑って楽しめばいい。必ず老いるんですから人間は。納得して受け入れないと。
僕は73歳やけど、その年齢を受け入れています。そこからですよ、人生は。うちの師匠は67歳で天国へ行き、親も60代で逝ってしまいました。だから僕は師匠や親より生きている。あと何年かわからんけど、人生まだまだ楽しみながら伸びていかなと思ってます。ものは考えようですよ。
原田
私は自由に生きようと思います。あまりルールを決めず、ルーティーンも気にせず、一回自由に生きてみようと。基本、真面目な性格なので、あれもしなくちゃこれもしなくちゃと思いがちなんですが、芸能生活40周年を終えたので、あとはもう好きなように過ごそうと思ったら、心が軽くなりました。
健康的に日々を楽しめる時間は、永遠ではないと思うんです。だから、仕事があるときは集中してやり、それ以外のプライベートは決め事をせずに楽しもうと。日々を楽しみ、一期一会を大切にして、ちゃんと自分と向き合いながら後悔のない毎日を過ごそうと思います。
素敵なお話ありがとうございます。最後に完成した映画を見た感想などを教えてください。
鶴瓶
塚本監督がね、どうや、この映画すごいやろう……っていう意識がないんですよ。すごく自然な演出で、それが良かったですね。すごくおもろい人なんですよ。たこ焼きのシーンで爪楊枝の刺さり方についてスタッフの注意が入ったら“そんなのどうでもいいんだよ! 誰も見てないんだよ!”って(笑)。ちょっと待て、誰も見てないんか、このシーン(笑)。ほんまにおもろい監督で、それが映画にも出ていると思います。
原田
西畑夫妻の人生が濃縮されていて、無駄なシーンがひとつもないと思いました。大きな事件があるわけではない、夫婦の人生を丁寧に描いて、ふたりの日常と人生の忘れられない一コマ一コマが集められていて、素晴らしかったです。完成した作品を見て、この映画に参加させていただけて本当に良かったと心から思いましたし、ぜひ皆さんにも見ていただきたいです。
映画『35年目のラブレター』

2025年3月7日(金)全国公開
- 出演:笑福亭鶴瓶 原田知世
重岡大毅 上白石萌音
徳永えり ぎぃ子 辻󠄀本祐樹 本多 力
江口のりこ 瀬戸琴楓 白鳥晴都 くわばたりえ
笹野高史 安田 顕 - 監督・脚本:塚本連平
- 配給:東映
- 映画『35年目のラブレター』公式サイト
©2025「35年目のラブレター」製作委員会
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