「みんなの“強み”を引き上げる」NPO法人FDA理事長成澤俊輔さんインタビュー(後編)
NPO法人FDA 理事長 成澤俊輔さんインタビューの後編は、企業を退職して現在、FDAで支援員をされている、皆川正博さんのお話しと、成澤さんの考える、これからのFDAの展望についてお伺いしました。
前編記事はこちら→「みんなの“強み”を引き上げる」NPO法人FDA理事長成澤俊輔さんインタビュー(前編)
- NPO法人FDA(Future Dream Achievement)プロフィール
ひきこもりの支援を目的として2010年2月に設立、2013年12月より障がい者総合支援法に基づき 就労移行支援・就労継続支援B型事業を開始。就労困難者・困窮者が安心して働くことができる環境整備と就労訓練を提供し、地域社会と密着して雇用の創造に励んでいる。成澤俊輔氏は2011年12月1日より事務局長に就任。現理事長。就労困難者に就労に至るまでのトレーニング環境を提供。
NPO法人FDA(以下FDA)は、さまざまな理由で働きたくても働けない人へ向けて、就労支援をしている団体だ。理事長の成澤俊輔さんが考える、福祉や支援の概念を取っ払ったようなその支援方法は全国で注目され、講演回数は年間100件を超えている。
成澤俊輔氏から感じるもの。
それはとてつもない引力と、逃げ出さないという絶対的な愛情だ。
働きづらさのある人への就労支援といっても、仕事をあっせんするだけではない。
本人の心の中をのぞき、家族に徹底的に関わり、企業には対等に切り込む。
そして、その誰もに、“一生関わるよ”と言うのだ。
それは大きな覚悟のいる、大切な言葉だと思う。
“世の中の役に立ちたい”という思いを実現する場所
では皆川さんにお伺いします。就労支援の仕事をしようと思われたことに、きっかけはあったのでしょうか。
皆川
ここに来る前は、37年間化粧品会社に勤務していました。入社した頃には“世の中の役に立ちたい、全女性をきれいにしたい”なんて想いや夢があったわけです。でも忙しく働いているうちに、本当に頑張って働いていたのですが、実際に世の中の役に立てているか、実感のないまま数十年が経ちました。営業職だったので、成績が良ければ嬉しく、会社には貢献できたと思いますが、広い目で見るとそれは世の中のためになっているのかな、と。
晩年になってから、会社が社会問題になるような事故を起こし、多数の被害者を出してしまいました。ちゃんと厚生労働省の認可のもとに行っていた事業ですが、会社に責任がないとは言えません。私はお客様対応室での仕事をし、精神的にもずいぶんとつらい日々を過ごしました。自分が会社でやってきたこと、持っていたはずの想い。自分は何をしていたのだろうか、とその頃から考えるようになってしまいましたね。定年後に会社を離れて、これから働くのであれば人の役に立ちたい、できれば若者の手助けとして就労支援がしたいという思いが募りました。私には娘がいるんですが、友人が就職できなかった、などと言う話を聞いていたもので、何か役に立てればいいな、と。
キャリアコンサルタントの勉強は定年前からしていましたが、資格を取ったのは定年後です。
大変な思いをされたんですね。その後、成澤さんに出会ったと。
皆川
実は成澤さんに会うまで、FDAが何をやっているかなんて、さっぱりわからなかったんです(笑)。
ハローワークに行って相談員さんにこれまでの経緯や自分の想いを伝えると、「あなたは民間のところよりもNPO法人の方がいいかもしれませんよ。」と言われて。
そしたらこのわけのわからない英語の(笑)、ここと出会って。
成澤さんのことは少し話しただけで“お、いいな!”と思いました。全く分からない世界、でも頑張れば人の役に立つことができるかもしれない、そう思いました。この中では一応、“少数派”である健常者です。最初は不安もありました。馴染めるかどうか、気持ちに寄り添い、理解することができるか、心配でした。でもやってみると楽しい。やりがいがあります。
成澤
取引先の企業の人に皆川さんが、「ここに来てから、成長を感じたり“幸せ”みたいなものを思ったり、口に出したりするようになった。これは前職ではなかったかもしれない感情でした。」と言っているのを聞いて、「ちょっといい仕事できたかな。」って僕も思いました。
皆川
この年齢になってもまだ自分のことをわかっていないし、ましてや利用者の人は自分の方向性、自分の強みは何かということ、わからないでここにきていますよね。
それらを一緒に考え、教える立場なのかもしれませんが、利用者から教わり、学び取っていることの方が多いです。よく、「医者は患者さんから育ててもらう」「学校の先生は生徒から学ばせてもらう」という言葉を聞きますが、我々スタッフは利用者から育てられていると実感しています。
皆川さんについての話を聞いたとき、成澤さんは「面白い人が入ってきたよ。」と仰っていましたよね。「普通の人は会社員時代の役職や部署を言うんだけど、皆川さんは大企業に勤めていたのに“そういうのは抜きで。ここには罪滅ぼしできました”って言った。まあよくここまでたどって来られた。凄い人だ。」と。
自分の活躍や出世のことよりも社会貢献ができているかどうかが気になる。そういう人なんですね。
人が自分の良さに気づいた瞬間を見られる幸せ
皆川さんは普段どんな仕事をされているんですか。
皆川
溝ノ口の事業所で、ラベル貼りなどの手作業の手伝いや指導のようなことをしています。できる人もできない人もいますので、それぞれの個性やスキルに合わせて、少しでもレベルアップできるように、また何が向いているか、好きか、そんなことも見ながらお手伝いしています。
成澤
溝ノ口の事業所には、障害の重さなどの理由から一般就労をめざせない人もいます。作業はパソコンを使わずにする、中古レコードの洗浄やラベル貼りなどの手作業。
まずは事業所に来るということが目的という段階の人もいますし、自分にもできることはないかしら、というのを探す場でもある。この事業所から企業に実習に行く人もいるので、その人たちの様子なども見てもらっています。皆川さんには個人個人を見ながら俯瞰する目としても活躍してもらっていますね。
やりがいを感じるのはどんなときですか。
皆川
利用者の人が自分の良さに気づいたとき、それをこちらが気づいたときが一番うれしいですね。例えば、何も上手にはできないけど、空気を和やかにするのが上手な人がいます。そんな人と“作業の速さなどは求めないけど、ムードメーカーに来てほしい”と思っている企業とはマッチします。実際にそういうことはあるので「あなたはムードメーカーだからね、それって強みだよ。」と教えてあげる。
自分で気づいていない強みに気づいたな、と思う瞬間、それを見ると本当にうれしいですね。それを就労や実習に結び付けたい。方程式があるわけじゃないので難しいんですけどね。
成澤
溝ノ口のメンバーから外に実習に行きはじめるとうれしいですよ。コミュニケーションが難しい子もいますから。総じて社内から社外へ実習に出ると、みんな自信がついてきます。ちょっとエラそうになってみたり(笑)、いろいろ主張を始めたりね。FDA以外にもぼくらを必要としてくれる場所があるんだ、という事実は大きいですね。
それでは成澤さんにお伺いします。ここからもっと活動を広げていくという気持ちはありますか。
成澤
拠点自体はこれ以上絶対につくらないと決めています。全国の首長、議員さんなどからオファーはたくさんきていますが、拠点を増やすつもりはありません。ハコをつくってしまうと継続にばかり目が行き、”3か月以内黒字目標“などと本来の目的から離れた目的を掲げ、結果的にイノベーションが起きなくなると思っているから。
ただ、知恵は共有します。現在も約10カ所の地域にコミュニティをつくってお手伝いをしています。でも僕には今1対1で自治体の手伝いをする時間はないんです。救わなければいけない命や人生がたくさんありますから。
しかしコミュニティをつくって面で我々が支援すること自体には大いに意味があると思います。まだ就労支援があまり満たされていない地域に取り組みと知恵を持っていく。高知県でアドバイザーとして活動していますが、働く手段としてテレワークの取り組みを提案するなど、今とてもうまく機能し始めているんですよ。メインシティではない地域での展開をどうするか、これは僕らがやらなきゃいけないことの1つです。
さまざまなことを掛け算しながら仕事を生み出すという力
拠点はこのままに、そして地方の自治体が良い形で就労支援できるように力を貸すという取り組みをされているわけですね。今後の展望として考えている取り組みは他にもあるのでしょうか。
成澤
18歳以下に向けた事業を考えることが課題だと思っています。
みなさんよくこう言ってくれるんですよ。「もっと早くに出会いたかった」って。
今より早く、子どもたちが職に就く前に教育や訓練ができれば、より良い取り組みができるんじゃないかと思っています。
ダイレクトに子どもや家族を支援するために、この春から就労困難な人と、幼稚園・小学生をペアにしたプログラミング教育を行う予定です。
子どもがさまざまな理由から引きこもりになったりすると、家族はショックを受けて焦り、どうしてもうるさく言ってしまいます。なぜかというと、週5日どこかに行けないと、会社勤めができないと思っているから。それには、「テレワークがあれば自宅にいてもフルタイムの正社員みたいに働けるぜ、コミュニケーションをほとんどとらずに。」って教えてあげればいい。そうすれば子どもへの小言が減ると思うんです。親に知恵をつけることで子どもが安心できる。そういうことからも教育の現場に出る必要があるかなと思い、今年の4月から長野県立大学のアドバイザリー・メンバーに就任することになりました。また、テクノロジーがあるからこそ救える命もあるとも思っています。引きこもりになると、夜死にたいと思うことが多いんですね。なので時差を利用してカナダの引きこもりの人に日本の日中の仕事をやってもらう、という計画もあります。薬を飲んで治療したり、昼型の生活に改善したりという方法はありますが、時間はかかります。早い時間でたくさんの命を救うためには選択肢がたくさんあった方が良いです。AIについても人の仕事を奪うなどと言われていますが全くそうは思わない。AIの最初のインプットは手動で行います。その仕事はうちに適した人がたくさんいる。テクノロジーが進めば進むほどリアルのニーズも高まっていくから、伝福連携(伝統文化と福祉の連携)の仕事も生まれる。そう思います。
それから今後、ダウン症の子どもの親御さんに、既に実習に行っているダウン症の大人の人のジョブコーチとして付き添ってもらう、”親の教育を兼ねた実習モデル“というのをつくりたいと思っています。リアルな現場を体験すれば、漠然な不安を抱えたままよりも、今やることが見えてくるんじゃないかと思うので。これは他のケースでも当てはめられる取り組みですので、実現したいですね。
こうしていろんな発想を口に出すと、職員によく怒られるんですよ(笑)。
「いっぺんにじゃなく、ゆっくり!」って。でもやりたいこと、できることがたくさんある。
僕は『課題』『就労困難者の強み』『地域などのロケーションによる何か』を掛け算して仕事を生み出すのは日本で一番得意だと自負しています。それが困っている人の助けになればいい。障害を持っていても、引きこもっていても、いい奴がたくさんいるんです。
いい奴が報われる社会をつくっていかないとね。
平成28年に障害者雇用促進法が改正され、精神障害者も障害者枠に入ったことから、法定雇用率も引き上げられましたね。企業側も、誰に、どんな形で働いてもらいたいか、悩んだり困ったりして成澤さんを訪ねるのだろう、と想像できました。成澤さんのやり方であれば企業側、働く人、お互いがマッチした幸せな働き方ができるのではないでしょうか。
2018年3月9日に成澤俊輔著書『大丈夫、働けます。』(ポプラ社)が発売されました!
- 著者:成澤俊輔(なりさわ・しゅんすけ)
- 定価:1,400円(税別)
- 発売日:2018年3月9日
- 版型:四六判並製
- ページ数:232ページ
- 出版社:ポプラ社