アート・インテリアとしての「仏像」のはなし|株式会社MORITA 森田滋社長インタビュー
近年、老若男女を問わず「仏像」がブームとなっています。2009年に東京国立博物館で行われた「国宝 阿修羅展」は、連日1時間待ちの行列ができ、94万人という同博物館歴代3位の入場者を数えるほどの人気ぶり。いま、その仏像を自宅に飾る人が増えているそうです。今回、東京・表参道にある仏像フィギュア専門店「イスム 表参道店」を訪ね、「仏像のある暮らし」についてお話を伺ってきました。
- 森田 滋さん
2018年で創業50周年を迎えた、株式会社MORITAの代表取締役。2011年、美しいインテリアとしても、心を豊かにするアートとしても楽しめる仏像「イスム」ブランドを立ち上げる。
国宝級仏像のレプリカ?
表参道のおしゃれな街に「仏像」のお店があるとは、知りませんでした。
森田社長
2011年に仏像ブランド「イスム」を立ち上げて、ここに店を構えたのが2013年です。多くの方に、仏像は古臭いものではなく、上質な空間を演出する新しいインテリアになることを知ってもらいたかったので、文化を発信する街である青山地区をあえて選びました。
どの仏像もリアリティがあって、緻密な造形を感じます。どんな素材でできているのでしょう?
森田社長
ポリストーンという素材です。
石粉と合成樹脂を混ぜた素材なので、ほどよい石の重量感と繊細な表現力を兼ね備えています。製作では、まず2〜5ヶ月ほどかけて粘土で原型を作り、シリコンで型抜きをするのですが、例えば原型に指紋がついていたら、その指紋まで再現されてしまうほどの精密さをもっています。
ポリストーンのおかげで、手頃な価格でクオリティの高い量産品を作ることが可能になりました。
森田社長
皆さんは「型抜き」というと、型でとったものを組み立てるだけの単純作業と思われるかもしれませんが、実際は細かなパーツに分けて型抜きをして、それを組み上げます。多いものでは数百点のパーツが必要な仏像もあります。
また、一般的な量産フィギュアの彩色は手早く一気に仕上げられるスプレーであるのに対し、イスムは腕のいい職人が筆を使って細部まで塗り分けています。そういった条件で100体すべてを同じクオリティで仕上げるのは、他では真似できない大きな特徴だと思います。
森田社長
それだけ手のかかっている代物なので、私たちはここにある仏像を「フィギュア」とは思っておらず、ブランド立ち上げ当時は「フィギュア」と呼ばないようにしていました。ですが、何でもインターネットで検索する時代ですから、最近では「仏像フィギュア」という言葉も使っています。
早くイスムが認知されて、「仏像フィギュア」と呼ばないでも理解していただけるようにならないといけませんね。
形ではなく、気持ちが大切
半世紀もの歴史を持つMORITAさんですが、もともと仏像を作っていたのでしょうか?
森田社長
先代である祖父は美術工芸品の輸入卸業をやっていまして、当初は仏像ではなく七福神などの木彫工芸品を扱っていました。私はその後を継いで2代目となります。
なぜ美術工芸品から仏像へと転換したのでしょうか。
森田社長
時代と共に工芸品の需要が減り、私は違うビジネスモデルを模索していたんですね。ちょうどその時、あるご住職が私どもの会社に来まして、お菓子のオマケについているような小さな仏像の玩具を手に「これを木彫りで作れないか」と尋ねられました。それが最初のきっかけです。
当時、私は玩具のような仏像には否定的で、けしからんとすら思っていました。ですが、この玩具の仏像は檀家さんが「開眼供養(かいげんくよう/新しいお墓や仏像などに仏様の魂を入れ込む供養)をして欲しい」と持ってこられたもので、ご住職は何も言わず要望を聞き入れたそうです。
その時に、ご住職から「形ではなく、気持ちが大切」と言われて、ハッとさせられましたね。私の中で、新しい「気づき」がありました。
仏像に寄せられる「気持ち」こそ、仏像の価値だと……
森田社長
はい。これまでの仏像は主に「先祖供養」のために「寺や仏壇」に置かれる存在でしたが、私たちの仏像は「個人」が持つもの。
お釈迦様の思想というのは「生きている人が、どうしたら苦しみから逃れられるのか」であって、そういう意味でいうと、仏像は生きている人の役に立つものとして親しんでもらうのも一つなのではないでしょうか。
以前、お子様が全員独立したという年配のご夫婦からお手紙をいただきました。マンションで2人暮らしを始められて、何だか心に穴が空いたような気持ちだったところ、イスムの弥勒菩薩(みろくぼさつ)を飾ることで、その心の穴が満たされるようだったと書かれていました。
森田社長
仏像が信仰や供養のためにあることはもちろんですが、自分の心に向き合い、心を落ち着かせる存在として側に置いていただくことも、仏像の在り方の一つとしていただけると嬉しいです。
そんな想いを込めて、日々仏像を制作しています。
仏像業界の発展を願って
イスムの仏像は、日々の暮らしの中で活きてくるのですね。御社主催のフォトコンテストでも、みなさん素敵な作品を投稿されています。
森田社長
フォトコンテストでは、毎年たくさんの応募をいただいています。お写真から、皆さんがご自宅で仏像をどのように飾られているのかうかがい知ることができて楽しいです。私たちとしては次の商品の参考にもなりますし、お客様にはインテリアの参考にもなると好評です。
一方で、仏像なんて恐れ多いという人もいそうですが……。
森田社長
恐れ多いというよりも、破損の心配をされる方がいらっしゃいますね。でも、イスムの仏像は先ほど申し上げたポリストーンという素材ですから、ひび割れの心配もなく、比較的取り扱いも簡単です。価格帯も2〜3万円から、大きいサイズで10万円前後と選びやすいのではないでしょうか。
教科書で見たことのある有名な仏像が多数ラインナップされているので、お気に入りの仏像が見つかると思います。
一方で、御社のルーツでもある「木彫り」の仏像も販売されていますね。
森田社長
オーダーメイドの木彫りの仏像も取り扱っています。もちろん制作するのは、仏師や仏像作家の方々で、専任スタッフがお客様のご要望をお聞きして、最も適していると思われる製作者をご紹介しています。
長年、師のもとで学ばれてきた仏師の方や、個展を開きながらアート活動している木彫り作家の方など、いずれも仏像への深い造詣と伝統的な技を持ち合わせ、個性あふれる素敵な作品を生み出されている方々です。
森田社長
近年、仏師や仏像作家の方々は作家活動を続けるのが難しい状況となっています。工房を開く場所や作品を売るルートなどを個人で開拓していくのが大変なんですね。
私たちは仏像業界全体の発展にも寄与していかねばなりません。不透明な仏像の価格をMORITAという会社で明確にして、仏像のイメージを変えていくだけでなく、事業を通して作家さんたちをサポートし、木彫り文化の継承にも力を尽くしていきたいです。
ここ表参道店では、イスムの仏像をゆっくり見ていただけるだけでなく、仏師さんの展覧会や、宮澤やすみさんの「仏像ライブ」などのユニークなイベントも開催しているので、みなさんにはぜひ気軽に遊びにいらしていただきたいですね。
最初は仏像フィギュアと聞いて、どのようなものか想像がつきませんでしたが、実際に展示されている仏像を見て、そのリアルな造形に驚かされました。1日の終わりに、家の照明をちょっと暗めにしてジャズやクラシックでも聴きながら仏像を眺めたら、自分の心を安らかにして気持ちを切り替えられそうな気もします。百聞は一見にしかず、ぜひ、実物をご覧ください。