87歳の女性監督と若手カメラマンのコンビで描く、人生ロードムービー『顔たち、ところどころ』
顔と人生を映し出したドキュメンタリー
60年以上も映画作りを続けてきたヨーロッパの名匠アニエス・ヴァルダ監督(87歳)。彼女が、33歳のフランスのカメラマンJRとコンビを組んで作り上げたドキュメンタリー映画が『顔たち、ところどころ』。二人がスタジオ付のトラックで、フランス各地で人々の顔を撮影する姿を追いかけたロードムービーです。出会う人々の年代は様々ですが、やはり中年以降の人たちの顔は、迫力があります! 顔を撮影することで、彼らの人生も見えてくる。顔と人生を映し出した作品です。
物語
ヴァルダ監督は、娘のロザリー・ヴァルタを通してカメラマンのJRと出会いました。二人はすぐに意気投合。お互いに「人に興味があり」「有名ではなく権力も持たない人に興味がある」という点で一致していたのです。
さっそくJRのスタジオ付のトラックでフランスの村へ。JRの100歳のおばあちゃんに会ったり、牧場や港の労働者の人々やその家族に会ったり、さまざまな人々と出会い、話を聞き、写真を撮って、彼らの人生と向き合っていくのです。
権力者や有名人には興味ナシ!
普通がいちばん
ヴァルダは87歳と高齢ですが、実にチャレンジャーです。視力もかなり弱くなっていますが、人との出会いに対して実に積極的。「それは仕事柄でもあるし、人脈があるからでしょ」と思う人がいるかもしれませんが、違います。彼女が出会いたいと望むのは、映画業界のプロデューサーや役者たちではありません。彼女は肩書で人を見ないので、才能溢れるカメラマンとの出会いもあれば、村人たちとの出会いもあります。「有名じゃなく、権力のない人」に興味を持つのは、地に足を付けた生活を営む人の人生を見たいからです。
庶民の人の魅力を最大限に活かす、
JRの巨大写真
ヴァルダ監督とJRの旅は、彼のスタジオ付トラックで移動。撮影した人々の画像を巨大プリントして、家の外壁などに貼って行きます。その人の家や職場に人生が刻まれているようで大迫力。ハっとさせられます。若くてきれいな人の写真よりも、老年期に差し掛かった方の写真の方が、写真から人生が見えるような気がしました。若い人は自分を良く見せようと盛りがちですからね。
炭鉱住宅の外壁一面に張られた写真は、その住宅に住む最後の女性です。「私はこの炭鉱住宅の唯一の生き残りよ。最後に出ていくと言って、まだいるわ」と語る彼女のアップの写真は、まさにその住宅の主そのもの。このようにその人が人生を委ねた場所に写真が次々と貼られていくのです。
老人と若者の理想的な関係を見た
ヴァルダ監督の視力がいよいよ危険になり、彼女が病院へと出向くシーンがあります。治療を受ける姿も映画には残されていますが、ずっとJRは彼女に寄り添っています。もはや親子のようです。いちばん感動的だったのは、ヴァルダが長年の友人ジャン=リュック・ゴダールに会いに行ったものの、ゴダールの気まぐれに裏切られ、悲しみにくれていたときのJRの行動です。JRは彼女をなぐさめるために、これまで絶対に人に見せなかったものを彼女にだけ見せるのです。なんて素敵な二人なんだろうとウルっときました。
33歳のJRはヴァルダとの旅で多くの人生を見て、刺激を受け、作品として残しました。そしてヴァルダもJRとの旅で、多くの人生と対峙し、映画に残しました。ヴァルダとJRは、お互い尊敬で繋がる絆を得たのです。
老いているからこそ動き出そう
年を取ると、自分の思うように体が動かなくなり、疲れやすくなったりするため、だんだん外出も控えめになります。でもヴァルダ監督のように旅をすることで、エネルギーを得られることもある! 家に閉じこもって過去に生きるのではなく「どんどん外に出て行こう!」と、この映画を見て思いましたね。ヴァルダ監督のように取材をしなくても、1歩外に出れば、多くの人がそれぞれの人生を精一杯歩む姿に出会えます。生きている限り未来はあるし、世界は広いのです。ぜひ、映画『顔たち、ところどころ』を見て、元気をもらってくださいね。
映画『顔たち、ところどころ』
公開日
2018年9月15日(土)より、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
スタッフ・キャスト
監督・脚本・ナレーション:アニエス・ヴァルダ、JR
出演:アニエス・ヴァルダ、JR
音楽:マチュー・シェディッド(-M-)
字幕翻訳: 寺尾次郎
配給・宣伝:アップリンク
(2017年/フランス/89分/1:1.85/5.1ch/DCP)
©Agnès Varda – JR – Ciné-Tamaris – Social Animals 2016.