最年長は83歳、平均年齢70歳のシニアが主戦力 株式会社高齢社 緒形憲社長インタビュー
2000年に創業した「株式会社高齢社」は、高齢者のための人材派遣に特化した企業です。各種ガス機器の点検や高級マンションの管理などの業務を広く請け負っています。「定年後のシニアに仕事を任せても大丈夫?」、そんな偏見をくつがえして成長を遂げてきた「高齢社」。創業から18年を迎えた同社には現在、平均年齢70.2歳、900名を超える登録スタッフが在籍しています。一度聞いたら忘れられないインパクト抜群のネーミングの企業を率いる緒形憲(おがたけん)社長に、定年後に働く意味、シニア雇用のメリット、今後の展望などについて伺いました。
創業者が高齢社という社名に込めた想い
「高齢社」というお名前は、本当にインパクトがありますね。現在の日本では“高齢”という言葉は、「シニア」とか「シルバー」とかの横文字に置き換えられがちですが、あえて“高齢”というフレーズを使った理由が気になります。
緒形
命名は創業者の上田研二(うえだけんじ)によるものです。彼は仕事に熱心で、パワーにあふれていて、「100人の人がいたら、私は100人全員と仲良くなれる」というような人で、ユーモアのセンスも持っていて、「高齢社」という社名は冗談っぽいけれど、起業に当たっては4つのこだわりを持っていました。「21世紀のはじめ(2000年1月4日)に設立する」とか、「日本の中心(東京都千代田区)に本社を置く」とか、うちは東京ガス関係者やOBのみなさんの協力で成り立っていますが「資本の協力は受けない」とか。高齢社という社名もそのひとつで、「わかりやすく誰からも1回で記憶される名前」という思いが込められています。
「高齢社」ではさまざまな派遣業務を引き受けていますね。その具体的な仕事内容を教えてください。
緒形
東京ガス関連の仕事で多いのは、新築マンションの内覧会での説明業務ですね。内覧会ではガス機器や各種機器の使い方を説明するスタッフが必要ですが、それを高齢社が担っています。そのほかはガス設備の保安やメンテナンス、ガス機器の設置や営業などですね。東京ガスライフバル従業員が着用する制服のクリーニング業務も行っています。
また、昨年から一気に増えた仕事がありまして。それは高級分譲マンションの管理人業務です。朝の8時半から夕方の5時半まで管理人室に常駐する仕事ですね。朝のあいさつは「行ってらっしゃいませ」、帰りのあいさつは「お帰りなさいませ」と丁寧な言葉遣いはもちろんのこと、身だしなみや勤務態度も大切ですが、私どもから派遣するスタッフはデベロッパーさんに好評で信頼をいただいています。
「高齢者は仕事ができない」という思い込みを払拭したい
東京ガス関連の仕事とそれ以外の仕事の割合を教えてください。
緒形
現在は6割が東京ガス関連の仕事で、それ以外の4割がマンションの管理や運転補助などの仕事となっています。去年の今頃だと8:2の割合でした。
新規クライアントが急増しています。とかく「従来のクライアントだけで満足」と幅を狭めがちですが、新たな開拓をなさっているのですね。
緒形
やっぱりまだまだ世間には「高齢者は仕事ができない」というイメージがあるので、それを払拭したいですね。「高齢社」に登録しているスタッフの平均年齢は現時点で約70歳。団塊の世代といわれる65歳以上がほとんどですが、みなさん、とても元気に働いてくれています。70歳という年齢を聞くと不安に思われるお客様もいらっしゃいますが、このパンフレットの表紙はみんな「高齢社」のスタッフです。
中には週6日働く人もいますし、11カ月働いて残りの1カ月で海外旅行に行くという生活をしている人もいます。共通しているのはみなさん、ものすごく仕事に一生懸命です。
「定年を迎えたらのんびり生活する」のが理想のライフスタイルという認識は多くの人が持っているかと思いますが、定年後も働くことのメリットを教えてください。
緒形
仕事や人生の経験が豊富で元気なシニアがなにもしないのはもったいないですよね。「定年してゆっくりできると思ったけど、毎朝起きてからなんにもすることがなくてツラい」、なんて話を耳にします。週2日でも3日でも働いて社会と接点を持つことは若い人と新鮮な交流もできますし、これまでに得た知識や経験を社会に活かすことができます。働いて社会に貢献して、賃金は孫のお小遣いにしたり、趣味に使ったり。仕事に生きがいを見出す方はとても多いです。
企業としては即戦力の人材を雇えますし、ピーク時の一時的な増員にも柔軟に対応できるメリットがあります。「高齢社」には東京ガスやその関連会社で働いてきたスタッフが多いので、みなさん即戦力として活躍してくれています。
人間、誰しも年齢を重ねると余計なプライドが出てきてしまうものですが、シニアの方が就労するときの留意点などはありますか?。
緒形
まわりはほぼ全員年下になるし、これまで上の立場で接していた企業やお店に営業スタッフとして行くこともあります。かつての部下が上に立つこともあるので、常に教えていただくという姿勢が必要ですね。
創業時は20人だったスタッフが今や40倍以上に
御社のロゴマークの意味を教えてください。携帯電話の電波状況を示すアンテナのようにも見えるのですが。
緒形
実はこれ、横にすると“高”という文字になるんです。
なるほど、確かに! それは気がつきませんでした。
緒形
色にも意味があります。赤は「情熱」と「生命力」、緑は「信頼」と「知力」、黒は「熟達」と「経験」を表しています。
ところで、緒形社長はどんな学生だったんですか?
緒形
学生時代はそんなに勉強していませんでしたが、節目節目ではちゃんとやっていました(笑)。学生運動の世代(注:1970〜)ですから、みんな、留年するのが当たり前で。同期の2、3割は留年していましたが、それはイヤでしたから。でも当時は、まさか60歳を過ぎても働くとは思ってもいませんでしたね。
60歳を超えても社長をしている自分は想像できなかったと。
緒形
そうですね。私は去年代表に就任したのですが、創業時の苦労話は聞いています。上田研二が東京ガスの社員だったこともあり、立ち上げ時はガス器具の点火試験が主業務でした。当初は20人くらいで、年商も数百万円の規模で。派遣業は基本的にマージンをいただいて成り立つ業種なので、仕事があって人が動いていれば赤字にはなりませんが、立ち上げが難しいんです。おかげさまで弊社は成長していますが、やはり協力してくれる企業と人がいないと軌道に乗せるのは難しいでしょう。
現在の登録スタッフが900名以上ということなので、40倍以上の増員ということですね。
緒形
おかげさまで右肩上がりの成長を続けています。ただし、創業時は会社のことを記事にしてもらうため、新聞記者が集まる飲み屋を調べて、足を運んだりしていたという話も聞きました(笑)。
人は財産。働くシニアの信用が会社の信用につながる
今後の具体な展望を教えてください。
緒形
われわれは首都圏で事業をやっておりますが、地方からもシニアの派遣業を起業したいというお声がけをいただいています。65歳を過ぎても働ける人はたくさんいるから、そういう会社が増えてほしいですね。上田が立ち上げた高齢者活躍支援協議会という組織がありますが、そこには静岡や名古屋で同じシニアの派遣をしている企業も参加しています。
若い世代へのメッセージをお願いします。
緒形
若い人には余裕を持って働いてほしいですね。ときには気にいらない仕事をやる必要もあるでしょう。でも、そこをやり通すことが大事です。希望通りの仕事ができないと辞めてしまう人がいますが、営業の経験が経理に役に立ったり、活きることもあるんです。
私も会社員時代に異動や単身赴任を経験しましたが、そこでの出会いが今につながっています。いろいろなところに知り合いができて、各地で「まあ、緒形がいうならしょうがないかな」と言ってもらえるのは本当にありがたい(笑)。
あとは学ぶ姿勢も大事です。見てる人は見てますから。それが信用につながっていく。
信用という言葉が出ましたが、御社が成長を続けているのは「シニアの雇用」への信用が増してきたということでしょうか。
緒形
やっぱり人が財産ですね。高齢社のスタッフがお客様に信頼されて、ネームバリューにつながっていく。“定年後の亭主は粗大ゴミ”なんて言うことがありますが、「高齢社」ではそんなことはありません(笑)。うちは本社のスタッフも現場のスタッフも明るく元気で一生懸命働くので、毎日楽しくやっています。
では最後に、シニア世代へのメッセージをお願いします。
緒形
うちの最高齢スタッフは83歳で、倉庫管理の仕事をしています。かつて勤めていた会社のOB会で「高齢社」のことを宣伝してくれるスタッフもいますし、働くことが好きな人ばかりです。人は働くことで元気になるのだと思います。気力と体力と知力のあるシニアの皆さんにはどんどん仕事をしてもらって、より良い社会にしたいですね。