「ワイルドでジャングルな土地」がムーミンバレーパーク&メッツァビレッジに生まれ変わるまで(ロバート・ハーストさん)
池袋から電車とバスを乗り継ぎ、約1時間。そこにはムーミン谷のような景色が広がっています。
埼玉県飯能市にある「メッツァ(ムーミンバレーパーク&メッツァビレッジ)」。ここはムーミン谷の仲間たちに会えるだけでなく、フィンランド文化も体感できる場所として人気のスポットです。広大な宮沢湖を望む自然豊かな園内は、都会の喧騒を忘れさせます。
今回は同テーマパークの仕掛け人・ロバート・ハーストさん(ムーミン物語 代表取締役社長)に、パークの“これまで”と“これから”についてお話を伺いました。
- ロバート・ハースト
イギリス出身。投資銀行に勤め、バンク・エー・アイージー証券日本代表を経て、フィンテックグローバル株式会社取締役会長を務める。現在、株式会社ムーミン物語代表取締役社長。現在74歳。
金融業界中心のキャリア
はじめにロバートさんのキャリアについて教えてください。
ロバート
ケンブリッジ大学を卒業後、ペンシルベニア大学の院に進学しました。その後、Bankers Trustの東京支店や世界銀行に勤務しています。若い頃はアメリカや日本の他に、パキスタン、インドなど、世界各国を転々としていましたね。
金融業界が中心ですね。
ロバート
僕はもともとテーマパークの人じゃないんですよ(笑) 母校のペンシルベニア大学ウォートン校は、ビジネススクールとして知られています。そのため、金融関係の仕事に就くのは必然的でした。
なぜ日本に?
ロバート
初来日は院を卒業した後ですね。約9ヶ月間、日本語を学びました。
当時、日本経済は上がり調子でした。一方で母国のイギリスは、ストライキが多発して、少し暗い雰囲気だったんです。「日本のほうが面白そうだな」と感じ、日本で働くことにしました。
僕は世界銀行を退職後、日本の投資銀行に入社しました。約6年間の香港勤務を経て、また日本に戻り、それからはずっと日本ですね。2013年にムーミン物語の大株主であるフィンテック・グローバルの会長になり、ムーミンバレーパーク&メッツァビレッジのプロジェクトが始まりました。
まさか僕がムーミンのテーマパークに携わるとは、当時は想像もしていませんでしたよ(笑) ムーミンの思い出といえば、幼い娘たちに絵本の読み聞かせをした記憶があるくらいです。
ムーミンがとても好きな国・日本
ロバートさんは昔からフィンランドと縁が深かったんですか?
ロバート
投資銀行時代、フィンランド企業と取引がありました。仕事でフィンランドを訪れた際「日本人のムーミン愛」を実感しましたね。
フィンランドのヘルシンキ空港は、ハブ空港としての役割を担っており、多くの日本人が利用します。空港や街中のムーミングッズを扱う店は、いつも日本人で賑わっていました。中にはヘルシンキ郊外のムーミン美術館やムーミンワールドまで足を運ぶ人もいましたね。この様子から、トーベ・ヤンソン(作者)の家族も、日本人のムーミン愛を知っていたそうです。
僕もその様を目にし、「日本は世界で一番ムーミンが好きな国かもしれない」と感じていました。
東日本大震災をきっかけにパーク立ち上げに着手
ムーミンバレーパーク&メッツァビレッジ立ち上げの発端は?
ロバート
2011年の東日本大地震です。復興の最中にある子供たちを励まそうと、フィンランドから仙台市の公園へムーミンの遊具を寄贈するプロジェクトが立ち上がりました。
初めにテーマパーク計画の相談が寄せられたのは、その遊具メーカーでした。しかしフィンランドの小さな会社で、日本支社もありません。彼らは投資銀行に相談し、担当者伝いで僕に話が舞い込みました。
ムーミン谷の景色を追い求め北海道から九州まで
開業準備で最も苦労した点は何ですか?
ロバート
ムーミン谷のイメージに合う場所を探すことですね。ムーミンと仲間たちが暮らすあの谷の風景を再現できる、自然豊かな場所でなければなりませんでした。
候補地はいくつかありました。北は北海道、南は九州まで、日本全国あちこち訪ね歩きましたよ。「ムーミンはよく海に行くから、海の近くがいいんじゃない?」というアイデアもありましたね(笑)
ロバート
各地を訪れ、現在の埼玉県飯能市に決まりました。飯能市の宮沢湖周辺は、ムーミンの世界観に合うだけでなく、都心からのアクセスも良い。さらに飯能市は、かねてからムーミンとの深いつながりがありました。
飯能市には「トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園」があります。ここは市の職員がトーベに送った手紙がきっかけとなり作られた公園です。開設から20年以上を経てもなお、市民の皆さんから愛されています。また、当時のトーベの手紙も市役所で大切に保管されていました。
このような背景から、飯能市はムーミンとの関わりが深い場所だと感じ、ムーミンのテーマパークを開くのに最適だと考えました。
「ワイルドでジャングルな土地」を「フィンランド文化の発信地」へ
ロバート
もう一つ、園内の整備にも苦労しましたね。当時は草木が好き放題に生い茂り、水道も電気も通っていませんでした。初めて訪れた際の印象は、「ワイルドでジャングルな土地」です(笑) 約3年かけて、環境を整備しました。
まずは風景を近づけるために敷地内の土を大きく動かしました。それから電線は全て地中に埋めました。だってムーミン谷には、電柱も電線もありませんからね(笑)
パーク内は「ムーミンバレーパーク」と「メッツァビレッジ」にエリアが分かれていますね。
ロバート
「メッツァビレッジ」は、北欧時間を体感できる森と湖の楽園です。16.3万㎡の広い敷地の中に、マーケットやレストラン、アウトドア施設が並んでいます。
ロバート
日本人は「ムーミンといえばフィンランド」と、国を結びつけてイメージする人が多いんです。そのためパーク内に「ムーミンのテーマパーク」と「北欧の風景」を作り上げれば、皆さんにより一層喜んでいただけると考えました。
豊かな自然に囲まれた園内の様子をフィンランドの森に擬え、ムーミンバレーパークとメッツァビレッジの総称を「メッツァ(フィンランド語で“森”)」と名付けました。
メッツァは今やムーミンだけでなく、フィンランド文化の発信地になっていますね。
ロバート
そうですね。フィンランドといえば、今流行りのサウナを思い浮かべる人も多いでしょう。2021年にはメッツァビレッジ内にテントサウナを立て、サウナイベントも開催しました。
この他にも、さまざまなアウトドア・アクティビティを体験できる場所にしていきたいですね。
ムーミンは哲学的な側面も魅力
ところでムーミンバレーパークのアトラクションはいずれも細部までこだわって作られていますね。
ロバート
ムーミンに詳しい方にアドバイスをいただきながら、本の内容やイラストに沿って作り上げました。
ロバート
僕はパークの計画段階で、ムーミンの書籍を読みました。大人になってから読むと、ストーリーの哲学的な側面に惹かれますね。
ムーミンの物語では、登場人物の良い面だけを描くことはしません。悪い面も、各々の気持ちも、悩みだって綴られている。まだムーミンの本を読んだことがない方には、ストーリーの奥深さも知ってほしいなと思いますよ。
ちなみにロバートさんが一番好きなムーミンの谷の仲間たちは誰ですか?
ロバート
おだやかな性格のムーミンママかな(笑)ムーミンパパがアーティスティックな性格だから、ムーミン一家の本柱はムーミンママだと思います。
それからスナフキンも好きですね。ちょっと複雑で、そこが魅力的です。
さらにWell-beingな場所へと進化を続ける
ムーミンバレーパークは昨年リニューアルし、ロバートさんの好きなムーミンママやスナフキンにも会えるようになりましたね。
ロバート
「ムーミン谷の仲間たちと記念撮影ができる」とお客様からも好評です。ショーも一部変更し、子供たちが身体を動かしながら楽しめる内容へと生まれ変わりました。
今回のリニューアルのコンセプトは、「Well-being」です。幅広い意味を含む言葉ではありますが、私たちは「心もからだも心地よい状態が継続すること」だと捉え、リニューアルを進めてきました。
ロバート
私たちは以前から、サウナイベントやリラックスできる環境の整備など、あらゆる取り組みを行ってきました。いずれの根底にあるのも、心もからだも心地よいと感じられる居場所づくりです。これからも自然に恵まれた美しい環境を活かして、皆さんが何か学んだり、経験できるようなイベントを開催したいと思っていますよ。
ムーミンバレーパーク&メッツァビレッジは、これからも何度となく進化を重ね、どんどん発展させていきたいですね。ここがいつまでもWell-beingな場所であり続けるために。
ムーミンバレーパークからのお知らせ
【ムーミンの日 2022】スペシャルウィーク
- 場所:ムーミンバレーパーク
- 期間:8月3日(水)-9日(火)まで。
花火大会やコンサートなど、子どもからシニアまで楽しめるイベントが目白押しです。
詳しくはこちら
【ムーミン谷の雲海 2022】
- 場所:ムーミンバレーパーク
- 期間:7月16日(土)-9/25日(日)まで。
ムーミン谷を雲海が包み込む幻想的で、暑い夏にぴったりのイベントです。
詳しくはこちら