視聴者のコメントが私にとっての「糧」 73歳のYouTuber 成羽さんインタビュー
動画サイト「YouTube(ユーチューブ)」に個人で撮影した動画を投稿する「YouTuber(ユーチューバー)」は、小・中学生の「なりたい職業ランキング」で3位にランクインするなど、世間から注目を集め続けています。そのYouTuberの中で異彩を放っているのが、キネヅカ世代の成羽さん73歳。「皆さま〜! 成羽でございます」の挨拶から始まる動画は、若い視聴者から、「ホッコリする」「癒される」などと話題になっています。成羽さんは、2015年からほぼ毎日、自ら撮影した動画を一人で編集しては投稿し、多くの視聴者たちと交流を楽しんでいます。そこまで熱中できるYouTuberの魅力とは?
- 成羽
1945年生まれ。2015年にYouTuberとしての活動を開始。1人でスマホを使って、撮影から動画編集まで行っている。現在、多くのYouTuberが在籍するUUUMネットワークに所属。趣味は、書道、チョークアート、旅行など多数。書道は師範の免許を取得する腕前だとか。何事にも好奇心旺盛。
成羽のチャンネル(YouTube)
YouTuberになって広がった出会いの数々
YouTuberになって、この4年で何か変化はありましたか?
成羽さん
始めたばかりの頃は、いまのように、たくさんの視聴者の方に応援されるような状況になるとは思ってもいませんでした。時代の変化のおかげなのか、たまたまなのか、とても不思議です。
いまはネットだけでなく、テレビや新聞からも注目されているようですが。
成羽さん
最初は若者向けのカルチャー誌『Tokyo graffiti』さんの取材で、いろいろな業界の最高齢というテーマの記事で取り上げていただきました。なんで私が? とういう気持ちもありましたが嬉しかったですね。それ以降、テレビや新聞から取材のお話が来るようになりました。
近所のスーパーでお買い物しているとレジの方から「昨日、テレビに出ていましたね」とか、見知らぬ女性から「あら〜、あなた、テレビに出てたでしょ〜」とか言われることもあって、意外と反響があって驚きました(笑)。それにYouTuberとして周知されたことで、普段の生活では接点がないであろう方々とお会いできるのが楽しいです。
お会いしてみて印象的だった方はいますか?
成羽さん
オネエの方というか、トランスジェンダーの方とお会いしました。とても絵の上手な方で、彼女の方から連絡をいただいて。目の前でお話をしていると、見た目はまったくの女性なのですが、ときどき出てくる低音ボイスにビックリしちゃいました。
もう1人はYouTuberを始めて間もない秋田の中学生です。あちらからコラボの申し込みがあり、とても熱心で真面目な方でしたのでお受けしました。わざわざ秋田から上京してくるのかと思っていたら、ラインの電話を使ってお互いに映像を撮る方法でした。私にはその発想がなかったので、なるほど! と勉強になりました。お若い方は頭が柔らかいですね。
動画投稿はすべてスマホ1台で
成羽さんは撮影、編集、投稿まで一人で行っているそうですが、最初からスムーズに出来たのでしょうか?
成羽さん
いえいえ、まずはYouTubeの登録すら四苦八苦で、登録後もどうすればいいのか分かりませんでした。始めた頃はビデオやスマホで撮ったものを、パソコンに取り込んでから編集なしでアップするだけでしたが、試行錯誤した結果、いまでは撮影、編集、投稿までをスマホ1台で全部やっています。
疑問に思ったことはネットで検索するようにしていて、他のYouTuberさんたちの動画にあるジングル(オープニングのタイトル動画)はどうやって入れるのか調べたら、皆さんアプリを使っていることを知りました。それで見つけたのがいまの動画編集アプリです。有料の動画編集アプリ「Perfect Video(旧:完璧なビデオ)」といって、いろいろな機能があるので、これでジングルを入れたり、動画を編集しています。
そのアプリはYouTuberの間では有名なのですか?
成羽さん
あまり使われていないようです。自分のチャンネルでこのアプリを紹介したところ、何人か使っていますが、わからない操作方法があると、私のところに質問がくるので困っちゃいます。何でも聞けると思っていて努力されない若い方も多いみたいです(笑)。私はわからないことは、一つひとつ、一生懸命調べました。習得するまでに時間はかかりましたけど、自分で調べたことは忘れないですよ。
ちなみに動画編集にはどれぐらい時間がかかるのですか?
成羽さん
日常の動画であれば30分もあれば出来ます。編集しているところを見せてくださいと言われるのですが、すぐに出来てしまうので皆さん驚かれます。最初は時間がかかりましたが、もう慣れてしまいました。
ライブ配信で出産に立ち会う!?
視聴者とのコミュニケーションもユーチューブの楽しみのひとつだと思いますが、何か記憶に残る視聴者とのやりとりがあったら教えてください。
成羽さん
一番の思い出は、ライブ配信で出産中の妊婦さんとやりとりしたことです(笑)。看護師さんが妊婦さんに代わってチャットで実況してくれました。その方は双子を身ごもってらして、「いま1人目を出産しました、2人目を出産しました、あれ……双子ではなく三つ子でした!」と、ライブ中に三つ子だったことがわかりました。2人目までは名前を決めていたのですが、3人目の名前を視聴者に呼びかけたところ、「成羽ちゃんにしよう」とその場で盛り上がり、お母さんも気に入って、そのまま成羽ちゃんと名付けられました。あれは衝撃的でしたね(笑)。
動画のネタや話題はどのように選んでいるのでしょう。
成羽さん
特に意識したことはなく、思いついたことを躊躇しないでやっています。
いま力を入れている東海道五十三次歩きは、以前からやりたかった企画でした。最初は1人でやろうと思っていましたが、健康面など考えるとさすがに1人では難しいので、関連するウォーキングツアーに応募しました。先日、藤沢〜茅ヶ崎(休憩含め、およそ8時間!)まで歩きましたが、坂道の多いコースだったので足がつってしまいました。ガイドさんからいただいた塩分補給のアメで回復しましたが、前日の寝不足も影響していたかもしれませんね(笑)。
動画を見ていると、夜更かしされているのではないかと心配でした。
成羽さん
以前の平均睡眠は1日3時間程度でした。それでも最近は、何事も自分のペースで出来るようになったので、早く眠るように心がけていて、少なくとも5時間は寝られています。
YouTuberは職業としてなりえるのか?
ここまで成羽さんの知名度が上がってくると、そろそろ同世代のYouTuberも現れてきそうですね。
成羽さん
同世代のYouTuberは見かけませんが、50代の方が増えてきました。以前はYouTuberとして登録すれば誰でも収益を得られたのですが、昨春からユーチューブの規約が変わって、いまはチャンネル登録者数が1000人、過去12カ月間の総再生時間4000時間をクリアしないと収益を得られないんです。また静止画や音声だけ、アニメやアバターだけ、ボーカロイドの声だけなどの動画が、YouTuber動画としては認められないようになり、困っている人もいるようです。
最近始めた方は、お小遣い欲しさなのか、先を急ぐあまり「炎上(※)」するケースが増えています。女性のYouTuberさん同士で揉めて、匿名掲示板を巻き込んで互いに批判合戦となったこともありました。そうした騒ぎがあると再生数は一気に伸びるのですが、私はそうしたことはしたくないですね。視聴者の皆様が楽しんでくださる動画を地道に上げていくだけです。
※炎上=法令を破るような過激な表現をしたり、他者を批判するような内容で、ネット上の賛否を分けるような話題となること。
ちょっと踏み込んだ話となりますが、YouTuberでの収益というのはどれくらいなのでしょうか……?
成羽さん
よく聞かれるのですが、それは事務所から絶対に公言してはいけないと言われています。同じチャンネル登録者数、再生回数でも、人によって広告の単価が違い、世間で言われる1再生あたり0.1円ということでもありません。そもそもユーチューブの規約でも口外することを禁止されています。
昨年度は雑収入が確定申告を必要とする額になりましたが、それはYouTuberの収益だけではなく取材の謝礼なども含まれています。職業として成り立っているのは、世間でも知られる有名YouTuberさんくらいじゃないでしょうか。
それに動画を上げるにも意外と出費がかかります。私の場合、メイクや洋服のコーディネート動画もあるので、それらを全部購入していますし、照明や三脚などの撮影機材、編集アプリ、撮影に出かける交通費など、いろいろ経費もかかっています。収益はほとんど動画制作のために使っています。 始めてから5年目、辞めたいと思った時もありましたが、世代も住んでる環境も違う視聴者の皆さまがコメントを寄せてくれるのは、私にとって「糧」となりますね。
これから成羽さんのようにYouTuberになりたい方に何かアドバイスを。
成羽さん
いま申したように収益は期待せず、自分が楽しくされているのが一番いいのではないでしょうか。一番気をつけなければいけないのは著作権です。市販の楽曲はもちろん、動画にカラオケを使うのもよくありません。あと私は撮影場所への許可や映り込む人の肖像権にも気を使っています。無断にやっていると通報されてしまうこともありますし、動画には責任を持ちましょう。
定年前からやりたいことを見つける
ユーチューブ以外にもSNSをやっていますが、SNSをどう思っていますか。
成羽さん
以前から、ブログ、Facebook、Twitterなどをやっていましたが、自分で発信することが好きなのかもしれません。自分の周りの同世代を見ていると、周囲を気にして萎縮されている方が多い気がしていて、もっと堂々としてもいいのではないでしょうか。だから、年齢に関係なく、70代でもこんな人がいるんですよと伝えられるSNSの存在は素敵だと思います。
動画を配信したり、SNSで発信する際、ご自身の年齢は意識されていますか。
成羽さん
もちろん意識していますし、隠しても仕方のないことです。そもそも私自身、年齢、性別、職業などに対して偏見がありません。相手がお若い方だからって、断定した口調で年上ぶることはしません。時々、成羽さんはこうした方がいいとか、私を型にはめようとする方が現れますが、そういう方に対しては「ここは私のチャンネルです」とはっきりとお伝えするようにしています。
第二の人生を楽しむためのアドバイスはありますか。
成羽さん
定年退職後、お仕事ばかりされていた男性が引きこもってしまうと聞きます。私も、趣味もないし人付き合いもなくお仕事ばかりだったので、その気持ちはよく分かるのです。
昔、写真をやってみたかった、絵を描いてみたかった、キャンプをしてみたかったなど、若い時にやりたかったことがあると思います。それを思い出してみてはいかがでしょう。何か始めるなら、退職してからではお金を自由に使いにくくなるので、安定した収入のある現役時代に自己投資するのがいいと思います。早く行動に移しておけば、同じ趣味嗜好の仲間たちと出会う機会も増えますしね。
最後に座右の銘を教えてください。
成羽さん
「暗いと不平不満を言うよりも、進んで明かりを灯けましょう」です。世の中には文句ばかり言っている人が多いですが、文句を言う前に自分で積極的に行動した方がいいですよね。周りからは、「成羽さんは無駄に明るすぎる」と言われてしまいますが(笑)。
飾らない性格と周囲へのおもいやり、等身大の自分を素直に見せてくれる成羽さんの動画は、どこか親近感を覚え、若い世代に共感を呼んでいるのも納得出来ます。好奇心に年齢は関係ないと話す成羽さんは、「もう歳だから」「いい歳して」、そんな言葉は気にせず、自分の興味のあることにまっすぐ向えばいいと話します。これからのキネヅカ世代にとって、成羽さんの好奇心と行動力は見習いたいものだと思いました。
(おまけ)この日の取材場所は東京・立川にある「昭和記念公園」でした。成羽さんは移動中も満開のネモフィラにスマホを向けたり、取材後もコーディネート動画をテキパキと撮影されていましたが、なんと取材の翌日にはこの動画をアップ! 若者顔負けのスピード感にも脱帽です。