55歳以上対象、再就職の基礎知識を学ぶ シニア生涯ワーキングセミナー
先日、金融庁が発表した老後に「2000万円の貯蓄が必要」というニュースが世間を賑わせていますが、人生100年時代を迎え、多くの人が定年退職後も20〜30年は働き、収入を得た方が安心という状況に変わりはありません。まさしく就職問題はキネヅカ世代にとっては避けて通れない道といえるでしょう。そこで、編集部は都内で55歳以上を対象に行われている「シニア生涯ワーキングセミナー」を取材してきました。
年間60回開催!55歳以上の就職活動を指南
「シニア生涯ワーキングセミナー」とは、55歳以上のシニア世代の就業をサポートするイベントです。主催は東京労働局、都内ハローワーク、(公財)東京しごと財団、共催は各自治体で、東京都内各地で年間60回開催されています。対象は55歳以上の就職活動を始めたい人、すでに始めている人で、事前申し込み制で参加費は無料。どのセミナーも告知からすぐに予約が埋まってしまうほどの人気ぶりです。
セミナーは2部構成で、ライフプランの必要性や年金などの社会保障制度について説明する第1部「これからのライフプランニング」、シニア世代が抱える再就職の現状と考え方を教える第2部「シニア世代の再就職の現状と考え方」となっています。
自分の寿命より、お金の寿命が先に尽きないこと
第1部「これからのライフプランニング」では、講師のファイナンシャルプランナーの水谷先生が、今話題となっている老後2000万円問題について解説してくれました。
老後の夫婦の生活資金(1カ月)を水谷先生が試算すると、以下のようになります。
最低日常生活費 22万円
ゆとりある生活費 34万円
(そこそこの生活を考えると中間である金額は26万円)
現在の平均的な年金受給額21万円として、上記の生活資金の中間の額26万円で暮らすとなると下記のようになります。
(年金21万円)ー(生活資金26万円)=ー5万円
月に5万円が不足します。
(不足額)5万円×(年間)12カ月×30年(65〜95歳まで生活)=1800万円
これが老後2000万円問題の基本的な考え方です。
生活費、年金受給額は各家庭で条件が異なるので、すべてが試算通りではありませんが、老後の生活を楽しむのであれば年金以外の収入が必要なことは確かなようです。
セミナーでは、老後の生活を送るうえで「ライフプラン」の必要性を訴えます。これから何歳まで生きていくのか、これから何をやりたいのか、どんな生活をしたいのか、まずは老後に必要なお金がいくらなのか、架空の家庭のプラン表を参考に見ていきます。
「自分の寿命より、お金の寿命が先に尽きないようにすること」と講師の水谷先生。
ライフプランの実現には、経済的な裏付けが必要であり、その実現のために人生のイベント(旅行、車の買い替え、家のリフォームなど)を減らすのか、何か投資を行うのか、労働で収入を得るのか、自ら判断し実行しなければいけません。一度、家族揃って20〜30年先までのライフプランを考えてみるのをおすすめします。
男は背中で生き様を語る!なんて格好つけている場合じゃない
第2部「シニア世代の再就職の現状と考え方」では講師が代わり、東京しごとセンター・シニアコーナーの吉田さんが登壇。シニア世代の就職活動を見続けている方のリアルな言葉をたくさん聞くことができました。
シニア世代の再就職には3つのキーワードがあるそうです。
- 年金
- 体力
- 気持ち
⒈年金
50代、60代、70代で再就職への考え方が異なり、再就職先を選ぶ際に以下の違いがあります。
定年前は「労働から得る収入」
定年後は「年金中心+労働から得る収入」
65歳を境に「年金」があることを考えるため、再就職への考え方が変わります。年金がないうちはフルタイムで給与条件の良いところに人気が集中しますが、年金受給後は無理のない労働や、興味のある職種で、職場を選ぶ人が増えるそうです。
⒉体力
「体力には自信がある、自分だけは違う」そう思っていても、体力の衰えに対しては本人よりも企業(雇う側)の方が敏感です。
例えば面接が終わった際、帰っていく後ろ姿をチェックして判断することもあるそうです。男は背中で生き様を語る! なんて格好つけている場合じゃありません。自分の体の変化を客観的に把握するためにも、すぐにでも家族や友人に確認してもらいましょう。
⒊気持ち
これは特に男性に多いようですが、社会的地位の変化や喪失感など「気持ち」を引きずる人が多いそうです。
気持ちの切り替えがスムーズにいかないと、再就職にも時間がかかりがちです。気持ちを新たに、再就職やシルバー人材センターで仕事を探すか、NPOの立ち上げやボランティア、自治会に参加してみるのも良いでしょう。
自分のため? お金のため? 何のために働くの?
第1部でライフプランの重要性を確認しましたが、就職活動をする前に「何を目的に働きたいか」を、いま一度考えましょう。「どのような職種がいいのか」「収入はいくらあればいいのか」「働く時間はどれくらいか」「何歳まで働きたいのか」など、ライフプランに沿った考え方があると、再就職先の選び方も変わってくるはずです。定年後間もない頃は「働く=フルタイム」と考えがちですが、パートタイムでも充分にライフプランの条件を満たす場合もあります。
この後、第2部では再就職までの流れや、公的機関による就職活動についての説明が続きます。よく学生の就職では「資格取得」が有利と言われていますが、シニアの再就職の場合、資格よりも即戦力に繋がりやすい技能の取得の方が有利なのだそうです。
また公的機関を利用する際は、複数の窓口を活用するのもおすすめだそうです。就職活動時の参考にしてみてください。
- 55歳以上を対象にした「東京しごとセンター シニアコーナー」
これまでの職業経歴や希望に応じた仕事探しのアドバイスを実施。また、ハローワーク飯田橋との連携により求人票の提供と職業紹介を実施。
- 65歳以上を重点的に支援「ハローワーク各所 シニア応援コーナー」
都内16カ所のハローワークにシニア応援コーナー「生涯現役支援窓口」を開設。
- 概ね55歳以上を対象とした「アクティブシニア 就業支援センター」
無料職業紹介所。都内12カ所に設置。
参加者の声
ワーキングセミナー終了後、参加者に感想をお伺いしました。
- Fさん(65歳・女性)専業主婦
40年前に海外から日本に移住したというFさん。「老後は夫の年金だけが頼りとなるため、自身でも働き口を探したいと思って参加した。東京2020など、自分の語学力を活かした通訳の仕事で社会貢献をしたいと思っている。セミナーを受講して、働くことに光明が見えてきた」と笑顔で答えてくれました。
- Mさん(62歳・男性)再就職活動中
60歳で定年退職をし、再就職活動を最近始めたばかりのMさん。「これからは趣味の時間を大切にしたいので、趣味の資金づくりのために働くことを考えている。今回はシニアの就職環境や賃金相場などを知りたくて参加した。就活のノウハウだけでなく、ライフプランの話など参考になった」とのこと。
ズバリ! 気になるシニアの再就職事情は!?
セミナー主催である(公財)東京都しごと財団「東京しごとセンター」の酒井崇光課長にお話を伺いました。
シニア生涯ワーキングセミナー開催の主旨を教えてください。
酒井課長
人生100年時代でシニアの活用が注目されています。ご自身で就職活動をする人もいらっしゃいますが、働く意欲があっても就職活動をしていない、できない人もいます。そのような地域で眠っている人を後押ししたいのが目的です。
ただ働きませんか、という誘いだけではなく、ライフプランや働く目的を認識していただく機会を提供したいと思っています。
シニア世代の就職状況について教えてください。
酒井課長
ひと昔前に比べるとシニアを活用する企業が増え、就職しやすい環境ができています。東京しごとセンターのシニアコーナー登録者も右肩上がりで増えていて、昨年30年度の新規登録者は約8500人。再就職を希望される理由は人それぞれで、経済的にフルタイムでしっかりと稼ぎたい人もいれば、少しでもいいからパートで働きたい人など。中には地域貢献がしたいと、収入よりも仕事の内容を重視する人もいます。
採用する企業に何か変化はありましたか。
酒井課長
シニアの再就職先で一番希望が多いのが「事務職」です。これまでは、希望されている人の20%くらいしか採用されませんでしたが、いまは30%と事務職の門戸がわずかながら広がってきました。人手不足という状況もありますが、シニアの戦力価値が認められてきたかもしれません。
シニアのコミュニケーション能力の高さや、これまで培ってきた事務処理能力に企業があらためて気づいたのかもしれません。企業は活用したい、シニアも就職したいと双方の意向が合致してきました。
シニア雇用に積極的な職種はあるのでしょうか?
酒井課長
シニアの採用を積極的に行っているのが、マンション管理員、ケアスタッフ、保安といった職種です。特に、マンション管理員には若い人はあまり求められません。シニアの方がコミュニケーション能力や安心感で居住者も話しやすいというのがあります。
シニア女性の場合、これまでの家事経験から細かな点にもよく気づき、研ぎ澄まされた繊細な仕事が好まれています。企業の採用担当者からは、若手に自分の経験をフィードバックして育ててくれると言われたこともあります。
シニアの仕事としては体力的にキツくはないですか。
酒井課長
ケアスタッフや保安は体力的にキツイのではないかと思われますが、しっかりと時間で区切られているため、親の介護や孫の育児を担っている人、自分の趣味の時間が欲しい人など、自分の時間に合わせやすいという利点があります。また職場には同じ世代の仲間が多いので、働きやすいという声もあります。
再就職したシニアの賃金相場は。
酒井課長
条件によって異なりますが、パートで時給1000〜1200円くらい。フルタイムで月収20万円ほどになります。
以前の職種によって、就職しやすい職種の組み合わせなどありますか。
酒井課長
経験を活かすことは出来ると思いますが、あまり前職に固執しない方がいいですね。再就職はまったく新しいチャレンジとして考えて、セカンドキャリアとして新しい分野に飛び込んでいく気持ちの方が選択肢も広がると思います。
また、パートの場合は兼業を禁止していないところもあり、2つの仕事を掛け持ちしたWワークをされている人もいます。年金の上限に気をつけながら、ご自身が興味のある仕事を楽しんでいらっしゃるケースもあります。
「働けるうちは働きたい」という人がとても多いので、いろいろな分野の仕事に挑戦したい人もいらっしゃるのではないでしょうか。
セミナーでは「70歳を超えると再就職しづらい」というお話がありましたが、実際にはどうでしょうか。
酒井課長
やはり70歳を過ぎると年齢による壁はあります。ですので、私たちも70歳以上の人を受け入れてくれる企業を積極的に開拓しているところです。
政府も70歳まで就業できるようにと動きはじめているようですし、今後、70歳以上の就職が広がる可能性はあるかもしれません。人生100年時代とはいえ、年齢を重ねれば体調を崩すことも、体力低下もあることなので、どこまでいけるか難しい問題です。
最後に再就職をしたいシニアにアドバイスをお願いします。
酒井課長
ひと昔前のシニアに比べると、いまのシニア層は断然若いので、チャレンジ精神をもって再就職活動に臨んでほしいです。そのために東京しごとセンターとして協力していきますし、必要な情報提供もしていきます。目的を持って前向きに取り組んでもらいたいですね。
約3時間に渡る「シニア生涯ワーキングセミナー」を受講して、あらためて気づきがありました。就職を考えた場合、ひとまず募集している就職情報を集めて、職種、賃金、勤務地、勤務時間など、どれか1つでも自分に合えばと探しがちです。でも、このセミナーではまずライフプランを考え、自分にはどのような仕事が必要なのか、老後人生の骨子を作ることが大事だと教えられました。人生100年時代は、就職にも長期的な視野が求められているようです。
このセミナーの参加資格は55歳以上ということでしたが、キネヅカ世代の子ども、30〜40代のキネヅカ・ジュニア世代こそ受講する価値があるような気も。ライフプランづくりと社会保障制度の話は、シニアになる前の現役世代から準備すべきことではないかと思いました。
今後のシニア生涯ワーキングセミナー情報
- 7/12(金)13:00~15:45
品川区立中小企業センター 2階 中講習室 - 7/17(水)13:00~15:45
ハローワーク新宿 西新宿庁舎 2階 会議室 - 7/22(月)13:30~16:15
ハローワーク八王子 2階 会議室 - 7/25(木)13:00~15:45
板橋区立グリーンホール 601会議室 - 7/26(金)13:00~15:45
町田市役所 3階 3-2・3-3会議室