活動する人

“誰も取り残さない”貧困のない社会をめざす『シャプラニール』事務局長小松豊明さんインタビュー

特定非営利活動法人 シャプラニール=市民による海外協力の会
1972年に創立された、国際協力を行うNGO団体。シャプラニールはバングラデシュの言葉・ベンガル語で「睡蓮の家」という意味。創立以来、貧困問題の解決に取り組んでおり、主な活動国はバングラデシュやネパール、日本。その活動内容は教科書にも掲載されている。吉川英治文化賞(1985年)外務大臣特別表彰(1989年)朝日社会福祉賞(2005年)日本パートナーシップ大賞優秀賞(2015年)など、受賞歴も多数。

シャプラニールが創立されたのは1972年。バングラデシュ復興のためにボランティアとして派遣された青年達が、現地で援助や支援の矛盾を感じ、帰国してから立ち上げたのが国際協力を行うための団体、シャプラニールです。創立以来40年以上もの間、一番困っている人は誰なのか、そこに支援の手は差し伸べられているのかを考え、着実な支援活動を行ってきました。シャプラニールは ①援助しない ②自らの解決を促す ③みんなで考える ④現場から学ぶ⑤誰も取り残さない、という価値観を持っています。その価値観はどういった支援活動につながるのか、私たちにできることは何なのか。事務局長の小松豊明さんにインタビューしました。

目次

本当に必要な場所、人に、困難に立ち向かえる支援を

まず、シャプラニールについて伺います。特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会(認定NPO法人)とはどういった団体なのでしょうか。

小松
貧困問題の解決に向けて活動している、国際協力を行う団体です。
NGO(Non-Governmental Organization)というのは非政府組織として、市民の立場から国際協力を行うという意味であり、主にバングラデシュやネパールといった南アジアの支援を行う活動をしています。
立ち上げのきっかけとなったのは、1971年、バングラデシュは独立戦争を経て、国として独立したのですが、その戦争で数十万人の兵士が亡くなり、当時は国中が混乱していました。そのことから、世界各国から援助や寄付といった支援の手が差し伸べられました。日本からも数十名のボランティアが派遣され、農村部でのさまざまな支援活動を行った後、日本に帰国したボランティアの青年たちが立ち上げた団体が、このシャプラニールです。それ以来46年にわたり、南アジアに暮らす人たちの暮らしをよくするための活動を行っています。

どんな思いからシャプラニールをつくり、支援活動を行うことにしたのでしょうか。

小松
青年たちがボランティア活動に参加したときに感じた“援助の矛盾”が、立ち上げの動機でしょうか。現地ではボランティアの数十名による復興農業奉仕団が結成され、日本の企業から寄付されたトラクターを持って、それぞれのメンバーが各地に散らばりました。ですが行かされるのは貧困層ではなく、まずはその土地の有力者のところ。また、寄付された機械は土地の現状に合わず、壊れても、直すための部品が調達できない。この支援の仕方は違う。ただ道具を現地に送れば良いというものではないし、もっと貧困層の人への支援が必要だ、と。一方で、貧しく厳しいと言われていながら、意外なことにそこには貧しいながら心豊かに暮らしている人々がいました。コミュニティの強固なつながりを持ち、大家族で暮らす。孤立とは無縁です。その部分では日本より豊かかもしれない。バングラデシュは“水の国”とも言われていて、天水だけでも年4回稲作ができるところ。本来は緑と水が豊かな国なのです。そう感じた人が日本に戻り、シャプラニールをつくりました。シャプラニールの基本理念は、当事者主体の支援活動です。何かを“してあげる”という意識ではいけない。自分たちで課題を解決できるように導くことが役割なのです。そして人に寄り添い、自らも当事者となり、「すべての人々が持つ、豊かな可能性が開花する社会」をめざして貧困問題に取り組んでいます。

ネパール洪水防災活動の様子。住民の経験をもとに話し合い、地域のハザードマップを作成し、避難訓練を行った。
2017年5月、バングラデシュを襲ったサイクロンにおいて、防災プロジェクトを進めている地域では、いち早く初動活動を開始し、人的・物的被害を出さずに済んだ。

防災に関しての取り組みとしてですが、南アジアは地震やサイクロン、洪水などの自然災害が頻繁に発生する地域です。せっかく積み上げてきた様々な取り組みの成果が、1度の大きな災害ですべて流されてしまうことが度々起こってしまう。それによる被害を最小限に抑えることを住民自身の手でできるように、自分たちの手で暮らしを守り、被害を軽減できるように、我々がサポートしていくのも大きな仕事のひとつです。

フェアトレードの取り組みとしてシャプラニールが行っているのは、現地でつくられる衣類、雑貨などの手工芸品を日本で販売すること。また、生産者に適正な賃金を払うことで生産者の、またその家族の生活を良くしていくということです。生産の仕事をしている人の多くは女性たちです。バングラデシュでは女性たちが仕事をして収入を得る機会は多くありません。女は家の中にいるものだという思想や習慣は根強く、村の外に出たことがないような人もいます。その女性たちが仕事をして、自分の手で収入を得ることで、経済的に生活の質が上がることはもちろんですが、子どもたちをちゃんと学校へ行かせようという状況や意識が生まれます。また、色んな人と関わることで社会との接点ができ、社会や家庭の中で自分の存在が認められていく。それにより、自信や尊厳を持てるという点からも、社会的意義は大きいのです。だからこそ私たちは、こうした“女性たち”の手作りのものを中心とした活動をしています。

ジュート(黄麻)でフェアトレード商品を作る生産者(バングラデシュ)
フェアトレードのハンドメイドソープ生産者(ネパール)

誰もが参加できる、さまざまな支援の形

キネヅカの読者の方が参加できる支援の形としては、どんなものがありますか。

小松
まず、フェアトレードに関しては日本でも非常に多くの人が参加しており、市民参加の1つの手段でもあります。まずは商品を買ってもらうことも1つの支援。そしてイベントやお祭りなどで販売してもらうことも支援になります。販売だけではなく啓発のための取り組みとして、気軽に参加することができます。やり方についてはお問い合わせください。
もう一つは、募金での支援です。夏季や年末年始といった季節ごとの募金もありますし、活動地や内容(児童教育や児童労働のプロジェクトに使うため、などの)を指定した寄付のメニューもあります。また、月額千円の継続的な寄付で活動を支援していただくマンスリーサポーターになっていただくと、募金の使い道やシャプラニールの活動の内容が記された会報が届きます。こちらはいつ始めても止めても良いので、気軽に始められるのではないでしょうか。

また、「ステナイ生活」というタイトルの、物品寄付のプログラムもあります。家庭で不要になった、切手、書き損じのはがき、古本、CD、DVD、ゲームソフトなどを寄付していただき、それを現金化し、支援活動の資金に充てる取り組みです。個人や企業、団体などからたくさんの寄付をしていただき、収入としては年間5千万円~6千万円、それも年々増えています。また、送られてきた物品の仕分けを行うボランティアとして参加してくださる方もたくさんいらっしゃいます。未使用の切手の金額を揃えたり、書き損じのはがきを数えたりといった作業のため、毎日たくさんのボランティアの人が集まって仕事をしてくれています。このボランティアを希望される方へ向けて頻繁に説明会を開催していますので、興味がある方は気軽に参加してください。そこではシャプラニールの成り立ちや活動内容なども説明していますので、それを聞いた上で参加するかどうかを決めていただくことができます。ボランティアをしてくださっている皆さんは皆仲が良く、この活動を通して仲間ができているように感じます。

皆さんの支援が、南アジアで困難な生活をしている人たちの暮らしをよくすることにつながっています。この記事を読んで何かを感じることがあったら、出来ることだけで構いませんので、ぜひ力を貸していただければと思います。

NGOの支援団体って何をしているところなんだろう。軽々しく参加することなど許されないんじゃないだろうかと、ちょっと敷居が高いように感じていた人もいるかもしれません。ですが、ここにいる人たちは皆、普通の市井の人たちです。最初は興味本位でもいい、すぐに辞めても構わない、最初の一歩を踏み出し、気軽な気持ちでボランティアに参加してみるのはいかがでしょうか。
既にボランティアに参加しているシニアの方と一緒に作業をしながら、お話を伺いました。

楽しんでできることが社会貢献となる

なぜこのボランティアに参加したのですか。

Kさん
現役で働いている頃、ジャイカの仕事でサイクロンの被害にあったバングラデシュに行ったことがあるんです。退職した後新聞を読んでいたら、このシャプラニールがボランティアの募集をしていた。バングラデシュへの支援ということに興味が湧いて、説明会へ参加し、ボランティアをしようと決めました。

Sさん
働いていた職場がシャプラニールの活動を支援していたんです。その流れもあって、この活動に参加しようと思いました。

Aさん
ボランティア募集の記事を見て、説明会に参加したのがきっかけです。何か社会の役に立つことが出来たらいいな、という思いからでしたが、今では自分の楽しみのためにもなっていますね。

ボランティアをしてみて、どうですか。

Kさん
ここはこの活動を開始してから46年、手を広げるわけじゃなく、着実な仕事をしているという印象があり、好感が持てます。私は退職して以降週1回ボランティアに参加していますが、もう10年以上続けているんですよ。

Sさん
私も、もう何年も続けていますが、何よりボランティアのみんなに会えるのが楽しみで通っていますね。

Aさん
家にずっといるより、週に1度でも定期的にここの皆や職員の方々と話しながら作業をするのが楽しいですよね。
特にシャプラニールは、みなさんがそれぞれ世界を飛び回っていたり、色んな経歴を持つ人が集まっているので、何気ない話が刺激になります。

やりがいや生きがいを感じることは?

Kさん
全国からの支援がこんなにもあるということがわかり、驚きました。ステナイ生活で送っていただいた物資を換金した金額は年間で5千万円~6千万円。凄いですよね。皆さんの応援の気持ちを目の当たりにできるのは何より喜ばしいことです。

Aさん
全国から送られてくる切手や本やCDなど、普段ならば捨てられてしまうものたちが、自分たちの仕分けによってこれだけのお金になって、それがちゃんと世界の人たちの役に立っているのが実感できるので、そこにやりがいを感じますね。

Kさん
シャプラニールは、大きな組織に頼るのではなく、自分たちでお金を稼ぎ出している団体。そういう点でも着実だと感じます。会報での報告もあるので、役に立っているということがわかりやすい。家にばかりいてもつまらないですし、ここに来ればいろんな人とも交流ができて楽しいんです。

ボランティア作業は難しい内容ではありませんが、仕事量は多くやりがいがあります。参加したキネヅカスタッフは、いつしか無の境地に入ったように作業に没頭(笑)。あっという間に時が過ぎていました。休憩時間にはボランティアの皆さんや職員の方と談笑するのも楽しい。ボランティアに参加すれば、その日が充実した一日になるでしょう。

特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会

住所
〒169-8611 東京都新宿区西早稲田2-3-1早稲田奉仕園内

電話番号
03-3202-7863

文=木村千鶴、写真=鳥羽剛

写真提供=シャプラニール

※掲載の内容は、記事公開時点のものです。情報に誤りがあればご報告ください。
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