かっこよい人

「飽きがこないものがいいもの」民芸作品をこよなく愛す|松壽堂 美術商 松永社長インタビュー

近年、ZOZOの元社長前澤氏が123億円でバスキアの絵画を落札したり、今年に入ってからは週刊東洋経済誌が「アートとお金」特集を組んだりと、美術に関する景気の良いニュースを目にすようになりました。長引くコロナ禍でも、アート市場は活況を呈しているようです。値下がりリスクが小さい「安全資産」としても注目を集めている美術品ですが、実際のところはどうなのか、美術商一筋40年の、目黒区柿の木坂の老舗、松壽堂の松永社長にお話を伺ってきました。

目次

買い手だけではなく、作り手も減ってきた

美術品や工芸品に興味はあるもののなかなかふれる機会がありませんでした。業界の現状はいかがでしょうか。

松永社長
美術品は、初めて買おうと思う方はなかなか気軽に買えるものではありません。経済の変化とともに、買う層が変わってきたのは確かです。マンション住まいの人が増え、住宅環境も変化し、大型の絵画や、重厚壮大な工芸品は、中々手を出しづらくなっています。

巷では「美術品バブル」ともてはやされていますが、盛り上がっているのは一部のストーリー性の高い作家作品や、コンテンポラリーアート位で、実際多くの美術品は、値上がりはしていない現状だと思います。私が専門で扱う民芸作品も同様です。

こうした買い手の変化ばかりが注目されがちですが、作り手も減ってきています。民芸工芸品だけでは、中々生活していくことは厳しい状況だと思います。コンテンポラリーアートに流され、歴史や文化の背景と伝統を学ぶ作家も、工芸の分野では少なくなってきています。彼らを支えるパトロンの存在がいないという、時代背景の違いもあるでしょう。

工芸品に関して言えば、買い手よりも先に、次世代を作る若手作家の出現が望まれていると思います。

投資目的ではなく、「自分が好き」と思えるものを

どのような作品を選べばよいでしょうか?

松永社長
「投資」というのは、突き詰めれば、自分が好きなものではなく、みんなが好きなものを買う、いわゆる美人投票です。「飾って、見て、触って、楽しむ」という工芸品においては、投資目的ではなく、自分が本当に好きなものや楽しめるものを購入すべきです。手触り、重さを感じれる工芸品は好きな作品でないと、価値を感じづらいと思います。

柿の木坂にある当ギャラリー(松壽堂)では、人間国宝の作品から、彼らのお孫さんに当たる現存作家の作品まで、実際ふれていただくことが出来ます。ふれる美術館として、買うつもりがなくてもご来店いただいて構いません。

民芸作家の作品は、時代に流されない普遍的な作品です。彼らの作品の中から、ご自身にとって飽きの来ない作品を、是非見つけて欲しいです。

人間国宝、浜田庄司のお孫さん、浜田友緒さんの作品。藍の釉薬が美しい作品
河井寛次郎のお孫さん、河井創太さんの作品。河井寛次郎の作品を彷彿させつつモダンに

民芸作品に関していえば、いいものに手が届きやすくなった今がチャンス

一般の人でも作品を購入できますか?

松永社長
本当に気に入った作品に出会えるという意味で、今はチャンスだと思っています。10年前と比べても、かなり手に入りやすい価格のものもあります。 著名な作家でも、作品によっては数万から数十万円で買えるものもあります。

一生の宝物を手に入れることが出来るかもしれません。ちなみに私も一生の宝物を持っています。お店には決して陳列しません(笑) 作品との出会い含めて、私の宝物です。

まずは小さな美術館に行こう

まずはお気に入りの作品に出会いたい思います。初心者におすすめの場所などあれば教えてください。

松永社長
「美術にもっと詳しくなりたい」「作品の見方を身に着けたい」そんな風に考える人も多いでしょう。私のお勧めは、小さな美術館です。 大きな美術館は一回りするだけで疲れてしまい、展示のハイライトを見落とすことすらあります。小さな美術館は30分もあれば十分に見て回ることが出来ます。ぐるりと2周すると、展示の意図や全体の流れがつかめます。是非小さな美術館へ行ってみて欲しいです。

興味はあるけれど、美術品や工芸品はどこか「別世界のもの」という印象でしたが、お店で取り扱う作家の作品を見ながら松永社長のお話をお伺いすると、自分も「一生の宝物」がある生活に憧れを感じました。週末に小さな美術館に行って民芸作品にふれてみたいと思います。

新古美術 松壽堂

住所
東京都目黒区柿ノ木坂1-30-16

営業時間:11:00~18:00(土・日・祝日は11:00~17:00)
※不定休のため、ご来店の際はご一報ください。

電話番号
03-3718-4478

文・写真=納谷陽平

※掲載の内容は、記事公開時点のものです。情報に誤りがあればご報告ください。
この記事について報告する
この記事を家族・友だちに教える