着物は時代を物語る! やりたいことがあり過ぎて人生は楽しい 服飾デザイナー高島克子さん

今回、ご紹介させていただく高島克子さんは、とにかく多彩である。着物が好き、歴史が好き、デザインもすればイラストも自分で描く。古代から令和に至るまでの歴史とファッションの著書も多く、その中のイラストは自身で描いている。「いくら時間があっても足らないくらいやりたいことが多い」という高島さんの著書『イラストでみる 平安ファッションの世界』(有隣堂)には、平安時代の装いとその魅力が多角的に解説されており、気候とファッションの関係性もひも解かれている。今もやりたいことがあり過ぎるという高島克子さんに話を伺った。
- 高島克子(たかしま・かつこ)さん
服飾デザイナー・伝統ファッション作家1959年千葉市生まれ。1979年京都女子大学短期大学部家政科被服専攻卒業、大手製鉄会社を経て服飾デザイナーに。アメリカ留学(1992年-1997年)を機に和文化の素晴らしさを再発見。帰国後は英会話講師と並行して着物リフォームと帽子デザイン制作を開始。2022年秋より着物の伝統を次世代に受け継いでもらうために着物のアップサイクル『一糸想伝®』プロジェクト始動。
著書に『着物で紡ぐ日本の歴史』 蛇腹本2冊組 限定販売。『時代を紡ぐ着物たち』(自力出版)。『イラスト年表 着物は時代を物語る』(デザインエッグ社)。 『イラストでみる 平安ファッションの世界』(有隣堂)がある。

大統領選を見ようとアメリカに渡り、大学まで卒業する
大阪の高島さんのご自宅にお邪魔した。高島さんが着ているのは一糸想伝®プロジェクトで進めている着物をアップサイクルしたものである。「形を変えて想いを伝える」をコンセプトに、着物のアップサイクル推進を図るワークショップを開催している。着物文化を祖母や母親の思いが詰まった着物を着用したくても着丈が合わない、着付けができないなどで箪笥の肥やしになってしまう。そんな思いが詰まった着物を洋服としても着物としても着られるようにアップサイクルしたそうだ。
高島さんは、服飾デザイナーとして活躍の場を広げていたときに、突如サンフランシスコへ留学する。アメリカに行くきっかけを聞いて思わず、えっ?と聞き直してしまった。
高島克子(以下、高島)
アメリカの大統領になりたいと思ったんです。
えっ、大統領!? その突拍子もない発想はどこから来たのだろうか。頭の中でクエスチョンが渦巻いた。「ここから話さないとアメリカ留学のきっかけにならないんです」と笑顔で高島さんが話してくれたのは、柴田錬三郎原作の元禄から享保の騒然たる時代を背景に徳川吉宗が主人公の時代劇だった。
高島
『男は度胸』というドラマを見て、八代将軍吉宗が太平洋が見えるところで夕日をみながら“じい、俺は将軍になりたい!”っていうシーンがあったんですよ。それを見て、男はこうでなきゃってずっと思ってて“将軍になりたい”っていうところが心に残ってました。で、アメリカの大統領って将軍ぽいと思ったんです。将軍にはなれなくても大統領にはなれるんじゃないかって思って、大統領について調べたんです。
将軍から大統領に繋がったそうだ。ただし、アメリカ合衆国大統領選挙の被選挙権は「35歳以上かつアメリカ合衆国国内における在留期間が14年以上で、出生によるアメリカ合衆国市民権保持者」でなければならないと定められている。
高島
私は大統領になれないけれど、すごく大統領選を見たくなったんです。大統領選挙を見るのは今しかない! と思って、ちょうどクリントンさんの大統領選のときアメリカに行ったんです。
1992年のことである。その頃、離婚をして心機一転しようという思いもあった高島さんは、日本でのキャリアを手放し、半年間の予定でアメリカへ渡る。突拍子もない動機だと思われるかもしれないが、とにかく高島さんは決断が速い。こうと決めたらすぐに実行に移すのだ。
高島
アメリカに行ってすぐの頃、カフェテラスで日本の偉い方に話しかけられたんです。アメリカに留学して英語だけ喋れてもなんにもならないからね。「なにかひとつ身に着けて帰りなさい」って言われたんです。それがずっと心に残っていました。
高島さんは、語学留学のつもりだったが、ファッションの仕事を離れてみると“やっぱりファッションの仕事が好きだったんだ”と気づいたそうだ。そこで、ファッション関連の会社に勤めようと考えた。日本でのキャリアもあったので、雇ってくれるということになったそうだが、そもそも語学留学で渡ったアメリカである。ビザがないので働けない。
高島
大学に入れば就職できると分かったんで、猛勉強しました。TOEFLに一発で合格したら親がお金を援助してくれるという約束をしてくれたので、頑張って受かって、City College of San Franciscoに入りました。大学に入ってからは死ぬほど勉強したんです。常に20冊くらいの本がデスクの両脇に並んでいました。
大学ではマーケティングの勉強をしたそうだ。アメリカでの生活の5年間で、高島さんはやはりファッションが好きだということ、そして日本の和文化の素晴らしさを再認識したそうだ。
着物文化を残すために始めた「一糸想伝®」プロジェクト
帰国後は英会話講師と並行して着物リフォームと帽子デザイン制作を開始する。そして、2004年には、通信制大学の産能大学(現:産業能率大学)経営情報学部を卒業。2017年には『克子』ブランド立ち上げ、2022年に着物をアップサイクルする「一糸想伝®」プロジェクトを始動する。
「一糸想伝®」プロジェクトは、着物を持っていても 「着る機会がない」「着付けができない」「母親の着物は丈が合わない」 などの理由で、大切な着物がタンスに眠ったままになっている方が多い現状を踏まえ「着物として着るのが難しくても、できる限りその形を残し、身に着けられる方法はないか」 と考え、高島さんが生み出したプロジェクトだ。

高島
これは、元々は喪服だったんです。全部、手縫いです。袖を外しているんですが、外した袖でベレー帽や袖頭巾型フードにアップサイクル出来るんです。紋のところに猫の手摺型友禅をあしらってます。ベルトにしているのは昔の太めの帯締めです。


高島
千年、二千年と受け継いできた着物の文化を消していいのか、着物を製作する職人さんたちの仕事を残したいという思いがあるんです。
不屈の集中力で完成した『平安ファッションの世界』

2020年夏、着物と2000年の日本の歴史を綿密なイラストと共に紹介した蛇腹本を製作した高島さんは、その翌年には『着物は時代を物語る』(デザインエッグ社)出版した。そこには古代から現代までの日本の歴史と着物ファッションの流れがまとめられており、掲載されている200点以上のイラストはすべて高島さんが描いている。そして、2024年3月には 『平安ファッションの世界』(有隣堂)を出版した。もちろん、この本のイラストもすべて高島さんが描いている。しかもすべて歴史に基づいて検証したものだ。

一体、いつ寝るんだろうかというほどの仕事量である。
高島
最近は少し体のことも考えて寝るようにしていますが、元々、睡眠時間は3,4時間なんです。徹夜はできないんですけどね。平安時代って資料があるようでないんですよ。残っているのは、その家のことを書いている日記とかなんで。編集長に不屈の集中力って言われました。
著書には、その時代の気候のことも書かれている。平安時代は温暖だったという。
高島
そうなんです。今までファッションの本に気候が入っていたことがないんです。私、気象予報士の試験を受けようと思って6年前から勉強を始めて、今も勉強しています。2年前から1月に毎年試験を受けているんです。合格は難しいですが、取り合えず5回は受けようと思っています。
さらりという高島さんだが、気象予報士の資格は難しいことで知られている。なぜ、気象予報士の勉強をしようと思ったのだろうか。
高島
着物を着る時によく“着物警察”って呼ばれている方がいらっしゃるでしょ。
街で着物を着て歩いているときに、帯締めの位置が低いとか指摘される方ですよね。私も若い時に京都で声をかけられた経験あります。
高島
今の異常な暑さだと4月でも単衣を着たくなりますが「単衣は6月よ」という方がいらっしゃるでしょ。別に暑ければ4月に単衣を着てもいいんじゃないかと思うんです。何十年もファッションの世界にいるので、気象予報士の資格を持てば「今はこの気温だから単衣の着物でも大丈夫です」と言っても説得力が出るんじゃないかと思ったんです。
確かに説得力が出るに違いないし、日本の歴史や着物の変遷には気候が大きく影響しているはずである。
高島
平安時代のことを詳しく調べていると、栗拾いをしている女性が袖なしの姿なんです。これって、私がやっていることじゃんって。平安時代は暑かったと推測されるんです。
やりたいことがあり過ぎて、人生は楽しい!
高島さんは人の三倍生きているとか、今人生の何週目ですか? とかよく言われるそうだ。なんと、国家資格の知的財産管理技能士2級の資格も取得していたという。この資格は「一糸想伝」商標取得の際に役立ったという。
高島
なにもしないでぼーとするとか、暇つぶしができないんです。暇ってどうやってできるんだろうって思います。今でもやりたいことがあり過ぎて。
今、取り組んでいらっしゃることはありますか?
高島
今、放映されている大河ドラマ『べらぼう』の時代、江戸時代後期の着物ファッションのイラスト展を5月に予定しています。

高島さんは、着物の話も歴史の話も実に楽しそうに話してくれる。
高島
私、やなことはやっていないんです。たぶん、好きなことしかしていないし、好きなことが沢山あるんです。
高島さんと話していると、人生ってまだまだ楽しめると思えてきた。

高島克子さんインフォメーション
展覧会「“べらぼう”な時代の着物イラスト展」
インタビューで話されていた江戸時代後期の着物ファッションのイラスト展が開催されます。
- 開催期間:2025 年5 月21 日~6 月1 日迄
- 場所:平岡珈琲店(大阪府大阪市中央区瓦町3 丁目6-11)
- 営業時間:10:00-18:00
- 定休日:月・火曜日
著書
『イラスト年表 着物は時代を物語る』


- 著者:髙島克子
- 出版社:デザインエッグ社
- 発売日:2021年10月16日
- 定価:2,750円(税込)
古代から現代まで、日本の歴史と着物ファッションの流れをわかりやすいカラーイラスト年表で時系列に通観できるようにコンパクトにまとめながら、十二単/束帯の着用順序図解まで200点以上のわかりやすいイラストも掲載。
『イラストでみる 平安ファッションの世界』


- 著者:髙島克子
- 出版社:有隣堂
- 発売日:2024年4月6日
- 定価:2,860円(税込)
日本史上もっとも華麗なファッション文化が花開いた平安時代は、後世の 和装文化の原点といえます。ファッションデザイナーであり日本史上の服飾 文化の変遷を調べてきた著者が、カラーイラストとともに平安ファッションの 世界を多角的に解説します。
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