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映画『夜明け』主演・小林薫&柳楽優弥インタビュー 親子のような関係を演じた二人が語る撮影秘話「演技の神様が降りて来た!」

映画『夜明け』は、是枝裕和監督のもとで監督助手を務めていた広瀬奈々子監督のデビュー作。社会に出て挫折した若者と家族を亡くした孤独な男が出会い、信頼を深めていきますが、少しずつ綻びていく姿を描いた人間ドラマです。この映画の主演を務めた小林薫さんと柳楽優弥さんにお話しを伺いました。

目次

物語

河辺に倒れていた見知らぬ青年(柳楽優弥)を助けた哲郎(小林薫)は自宅で彼を休ませることに。名前を聞くと、青年は「ヨシダシンイチ」と名乗りましたが、それ以上は語ろうとしません。行く場所がなさそうな彼を哲郎は自分が経営する木工所で働かせ、自分の家に住まわせることに。

シンイチは、亡くなった哲郎の息子の部屋をあてがわれますが、その息子の名前は偶然にも「真一」。シンイチと同じ名前だったのです。そして次第に、シンイチは親とうまくいっていなかったこと、哲郎は事故で妻と息子を同時に亡くしたことを語ります。が、やがて哲郎は、シンイチに執着するようになっていくのです。

© 2019「夜明け」製作委員会

映画『夜明け』に出演した理由

映画『夜明け』は広瀬奈々子監督のデビュー作で、家族を亡くした男と家族から逃げてきた青年が出会って、疑似家族のようになっていく物語ですね。彼らのぎこちない関係性が絶妙で素晴らしかったのですが、お二人が本作に出演を決めた理由を教えてください。

小林薫さん(以下、小林さん)
広瀬監督は30代で若く、共演者も柳楽くんはじめ、若い人が多かったというのが決め手のひとつです。僕は若い人が作る作品で若い役者と組むことに興味があるんです。

かつては自分も若く、ベテラン監督のもとで演じてきたのですが、自分が年齢を重ねていくと、体が疲れやすくなったりするわけです。でも役者としての状態まで疲れてしまってはいけない。だから若い監督や役者さんと一緒の現場に入り、自分の状態を上げていくことが大切かと思っています。

若い監督に要求されることに戸惑うこともあるし、体力的に大変なことはあるのですが、それがいい。映画の現場というのはそういうものじゃないかと思います。

柳楽優弥さん(以下、柳楽さん)
是枝監督の作品で監督助手をやっていた方のデビュー作だと聞いて「面白そうだな」と思ったことと、脚本を読んで、シンイチの気持ちに共感できるところもあり「演じたい」と思ったので出演を決めました。

© 2019「夜明け」製作委員会

親子関係は答えがないゆえに難しい役

それぞれとても繊細なキャラクターでしたが、撮影前の役作りはどのようにしたのでしょうか?

小林さん
特に準備はしていないんですよ。ただどうやって演じるのか考えましたね。僕が演じた哲郎は、妻と息子を亡くして一人暮らしのところに、息子と同名のシンイチと名乗る青年と出会うわけです。彼は息子とうまくいっていなかったから、突然現れたシンイチと暮らすことで、過去をやり直そうとするんですが、それは所詮、借り物でしかない。この役はそういうことではないかと思いました。

テーマとしては難しくはないんですが、答えがないんですよ、誰が悪いとかそういう話じゃないので。この映画は、親子というシンプルな関係なのに、それぞれがうまくいかない物語。そんな難しい話を広瀬監督は若いのによく手掛けたなあと思いましたね。

柳楽さん
僕も確かに難しいと思いました。僕がキャスティングされたのは、是枝監督の『誰も知らない』があってのことだと思ったので、おそらく広瀬監督は僕に対して、生命力のようなものを求めていたのではないかと考えたんです。だから、シンイチの生命力を意識して演じました。

監督は口数が多いほうではないので、僕は信じたことを演じて、あとは広瀬監督に言われたことをやるように心がけていました。そうしないと、本当に答えがわからない作品だったので迷ってしまうと思いました。試写を見せていただいたときは「どういう映画になったかな」と、すごくワクワクしましたね。

試写を見るとき、ワクワクしたとおっしゃってましたが、実際に完成した映画を見た感想を教えてください。

小林さん
若い監督が、渋い映画を撮ったなあ、もっと気楽な映画でもよかったんじゃないか思いました(笑)。広瀬監督は、わかりやすくて、一件落着というような映画は撮りたくないのかもしれませんね。

この映画の撮影監督はドキュメンタリーのカメラマンなんですよ。だから、定番の絵は撮らない。例えば「おはよう」と工場に入っていくシーンがあったら、普通はセリフを言っている人物を撮りますが、この映画では「おはよう」の方にカメラは向いていない。セリフを言う側ではなく、聞く方にドラマがあるということなんですね。僕はとてもおもしろいなと思ったし、いい意味での違和感みたいなものがあり、それが良かったです。

柳楽さん
感想を言うのが難しいです(笑)。この映画は、何かを期待して見るというより、たまたま見てすごく心に残ったとか、そんな風に感想を持たれる映画じゃないかと。そういう可能性に賭けている映画だと思いました。

シンイチは、最初、人生を一回諦めているのですが、哲郎さんと出会うことで、真っ暗なトンネルの中にいながらも、ちゃんと人生の歩みを進めている、生きているんだという印象がありましたね。

© 2019「夜明け」製作委員会

演技の神様が降りて来た瞬間とは

哲郎とシンイチは依存し、お互いに影響を与え合っていますが、現場でのお二人はいかがでしたか?

小林さん
演技について、あれこれ細かく打ち合わせなどはせず、柳楽くんにお任せでしたね。この映画は、親子という普遍的でわからない関係を描いているので、あれこれ言いようがないんですよ。

ただ、シンイチが哲郎にとても大切な告白をするシーンのとき、柳楽くんが、肘をついたり、体のどこかに力が入っているとこのセリフは出てこない気がしますと言ったんです。確かにお互いが茫然としていないと成立しないシーンだと思ったので、そこはアイデアを出して、動きを確認しあいました。

お互いに演技プランがあるわけじゃないけど、それぞれが自分の役のことを考えて、ふっといいところに落ちたというか。演技の神様が下りてきたと感じましたね。

柳楽さん
薫さんとは大河ドラマでも一緒に仕事をさせていただいていたので、この映画の現場でわからないと思うことがあっても、薫さんがいたから、落ち着いて取り組めたと思います。

意識されていなかったと思いますが、撮影のとき以外でも、薫さんが哲郎さんのキャラクターらしくいてくださったので、すごく助かりました。ずっと千葉に滞在して撮影していたので、薫さんには共演者のみなさんとよく食事に連れて行っていただき、そういう雰囲気が映画にも出ていると思います。

小林さん
確かに、東京の自宅に戻らず、ロケ地にずっと滞在して撮影していたから、その土地の空気になじんていく感じはありましたね。何かいい化学反応が起こる気がしました。

現場でもいい雰囲気だったんですね。ところで、答えがない、わからないという言葉がよく出てくるのですが、役者さんはそういうわからなさと常に向き合っているのですね。

小林さん
答えの出ない仕事をやっていますから。何が正しいのかなんてわからない。おそらく死ぬまで答えなんてわからないと思いますよ。逆に「こういうもんだ」と言い切れる人がいたら「いいなあ、お気楽で」と言いたい(笑)。わからないけどやっているという、居心地の悪さはずっと続くと思います。

柳楽さん
勧善懲悪のメジャーな娯楽作も好きなのですが、『夜明け』みたいなインディペンデント映画で、同世代の監督とモノづくり感、手作り感のある現場で仕事ができたことで、自分もこの現場に参加したんだという実感があります。インディペンデントとメジャー作品の両方に参加できるように、これからも頑張っていきたいです。


小林 薫(涌井 哲郎役)

1951年生まれ。京都府出身。71年~80年まで、唐十郎主宰の劇団「状況劇場」に所属。映画『はなれ瞽女おりん』(1977年)で映画デビュー。『十八歳、海へ』(1979年)『それから』(1985年)ドラマ「ふぞろいの林檎たち」(83年/TBS)など多数の映画、ドラマに出演している。主演ドラマ『深夜食堂』(2009年/MBS)が人気を博し、映画『深夜食堂』(2015年)『続・深夜食堂』(2016年)も話題になった。本作で共演した柳楽優弥とはNHKの大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017年)で共演している。

柳楽 優弥(シンイチ/芦沢 光役)

1990年生まれ。東京都出身。映画デビュー作『誰も知らない』(2004年)で日本人初のカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を最年少で受賞。以降『包帯クラブ』(2007年)『合葬』(2015年)『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)の演技でキネマ旬報ベストテン男優賞などを受賞。ドラマでは「ゆとりですがなにか」(2016年/日本テレビ)NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」など、幅広く活躍している。

映画『夜明け』

映画『夜明け』ポスター

公開日
2019年1月18日(金)より
新宿ピカデリーほか全国ロードショー

スタッフ・キャスト
監督・脚本:広瀬奈々子
出演:柳楽優弥/YOUNG DAIS 鈴木常吉 堀内敬子/小林薫

© 2019「夜明け」製作委員会

取材・文=斎藤 香
写真=キネヅカ編集部
写真提供=© 2019「夜明け」製作委員会

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