サウンドプロデューサー重盛美晴インタビュー【前編】30周年を迎えたPENICILLINとの関係。年を取ってからわかること
2022年に結成30周年を迎えたロックバンド、PENICILLINを活動初期から支えている重盛美晴さん。アーティストのみならずファンからも「シゲさん」と親しまれているサウンドプロデューサーだが、そこに至るまでにはミュージシャンとして、いくつかのバンドを経験してきた。インタビュー前編は、そんなシゲさんの音楽活動歴、PENICILLINとの出会いから現在について聞いた。まさに人に歴史あり。過去を振り返ることの大切さとは?
- 重盛美晴
1990年、STILL ALIVEのギタリストとしてメジャーデビュー。洋楽志向の本格派サウンドで、海外ツアーやDeep Purpleの日本武道館公演オープニングアクトを務めるなど活躍。その後、様々なアーティストの楽曲アレンジ等を手掛け、現在はサウンドプロデューサーとして活動。初期からプロデュースしているバンド、PENICILLINは2022年2月に結成30周年を迎えた。また、PENICILLIN千聖のソロプロジェクト、Crack6のギタリストも務める。
ロックの目覚め、音楽活動のスタート
シゲさんは1988年結成のバンドSTILL ALIVEのギタリストとして、1990年にメジャーデビューしましたが、まずロックに目覚めたきっかけというのは?
重盛
中学2〜3年生の頃ですかね。音楽は元々好きだったんですけど、当時Bay City Rollersが流行っていて、この人たちは何なんだろうと興味を持ちました。友達とか周りからの情報で、いろんな音楽を聴くようになるじゃないですか。そういうよくある普通の流れで、周りの友達が聴いていたThe Beatles、KISS、QUEEN、AEROSMITHとかも聴いていました。つるんでいる仲間たちは皆、洋楽ロックが好きだったんですよね。
初めて手にした楽器はギターですか?
重盛
小学生の頃からピアノを習っていました。その後、中学3年生になる頃にはギターがやりたくて、うずうずしていましたね。やっぱりエレキギター特有の、あの歪んだ音がカッコいいなと思って。もうどっぷりハマっていきました。
音楽活動歴のスタートは?
重盛
昔、静岡に住んでいた時にバンドをやっていて、いろんなコンテストに出たりしてはいましたし(バンド名は確かHONEY HUSH)、また別にダークな曲しかやらないBLACK WIDOWというBLACK SABATHのカヴァーバンドもやっていました。その後、本格的にバンドをやりたいなと思って、19〜20歳くらいの時にSPELLBOUNDというハード系のバンドを始めて、ライブをやったりするようになったのは、その辺からですね。次に、ANTHEMのヴォーカルの森川之雄、クレイジーケンバンドのベースの洞口信也とALIVEというバンドをやっていました。その後、新たにSTILL ALIVEを始めて、めでたくメジャーデビューできたという流れでしたね。
STILL ALIVE時代、一番印象に残っている思い出は?
重盛
思い出…何だろうね。名古屋で置いていかれたとか、大阪で置いていかれたとか、韓国で置いていかれたとか…(笑)。まぁ、一番はやっぱりDeep Purpleの日本武道館公演で前座をやらせてもらったことですね。あれは僕自身もビックリでしたよ。しかもあの時、リッチー・ブラックモア(G)から誘われて一緒に飲みに行きまして、すごく貴重な体験でしたね。
すごい体験…! やっぱりステージは緊張しましたか?
重盛
いや、ステージは嬉しいばかりで緊張しなかったんですけど、楽屋に行く時とか、本人に会うのが一番緊張しました(笑)。あのバンドってリッチーだけ特別で、個別の楽屋があって、ローディーとかスタッフの人も入る時に緊張しているというか、すごく独特の空気感があったんですよね。
サウンドプロデュース業の始まり
いつからサウンドプロデュース業をやるようになったのでしょうか?
重盛
STILL ALIVEの活動がなくなって充電期間みたいな時期があったんですけど、その時に当時の事務所の社長に、そういうことをやってみないかと言われて。いろんなバンドのトラックダウンをやることから始まって、「アレンジもやってくれないか」ということで、ヴィジュアル系バンドのものをやり出すようになったんですよね。
※横で話を聞いていたPENICILLINの千聖さん(G)が補足を。
千聖
その前から、自分のバンドのトラックダウンをやっていたじゃないですか。そこから始まっていますよね。レコーディングのエンジニアが気に入らなくて、自分でやったらしいです。
重盛
そうそう。思った通りの感じにならないのがすごく嫌だったんですけど、イメージを言葉で伝えるのも難しいじゃないですか。だから上手くいかなくて、ミーティングの結果「シゲがやればいいじゃん」と言われて、それが始まりですね。
千聖
レコーディングはシゲさんだけコントロールルームに行って、せーので録っていたらしいですよ。予算がなかったからほぼ一発録りだったみたい。
重盛
ほとんどせーのですね。だから1週間くらいでアルバム録り終わっちゃうみたいな(笑)。
千聖
それは皆上手いからできることでもありますけどね。とにかく当時のシゲさんは、人が良くても下手だとクビにしちゃうという、ものすごく厳しい人だったんですよ。
ドライ…! 今の雰囲気からはとても想像できません。
重盛
昔はね、やっぱり尖っていたんですよ。中身も未熟だったので。
PENICILLINとの出会い
シゲさんが初めて携わったPENICILLINの作品は、1994年12月リリースの1stフルアルバム『Missing Link』でしょうか?
重盛
そうですね。出会い自体がその時でした。ヴィジュアル系の人たちって見た目もこだわっていて、そういう出来上がった姿を写真とかで見た後に本人に会うので、いつも「どういう人たちなんだろう…?」と、自分のほうが思っているんですよ。PENICILLINはみんな背がデカイなぁ、目線が近いなぁとか、そんな第一印象でした(笑)。
千聖さん曰く、シゲさんから「他のバンドよりも群を抜いて音を良くしてやるから、カッコいい曲だけよろしく」と言われたとのことで。
重盛
あ、そうなんだ。確かに、そんな感じで言ったような気もしますね。
『Missing Link』ではサウンドプロデュースのみならず、収録曲「Miss Cool」の作曲も手掛けていますが、そもそもどのような流れでシゲさんが書くことになったのでしょうか?
重盛
実は、PENICILLIN用に作ってくれと頼まれたわけじゃなくて、「こういう曲を必要としているバンドがいてさ…何曲か作ってくれないかな」と言われて出したのが、たまたまPENICILLINだったんですよ。まさかPENICILLINだとは思わず、意外でしたね。
千聖
確かに、PENICILLINに寄せた感じの曲ではなかったですからね。多分、違う人用の曲が自分たちに回ってきちゃったんだなっていう感覚でした(笑)。
マネジメント的に、PENICILLINに新しい要素を入れようという目論見があったのでしょうか。
重盛
いわゆるポップ感は欲しいなというのはあったんじゃないですかね。バンド自体が持っていた曲はどれも良い曲でしたけど、違う要素も欲しかったのかもしれないですね。
30周年を迎えたPENICILLIN。過去があるから今がある
活動初期から関わってきたバンドが今年30周年を迎えたというのは、どんな気持ちですか?
重盛
続けてくれて、ありがとう。もうそれしかないですね。これだけの時間続けるって、すごく大変なことだもんね。何年か活動を止めていて、再開するという形はよくあるけど、ずーっとですから。すごいと思う。そこも、もっと評価されるべきだと思います。
2月に行われた30周年記念ライブでは、キーボードでシゲさんもステージに立ちましたよね。
重盛
有り難いことです。PENICILLINの活動初期の頃はキーボードで一緒に立っていたので、久々に当時のように一緒にやりましたけど、個人的にはもうちょっとやりたかったです(笑)。
千聖
2月のライブに関しては、O-JIRO(Dr)からの強いオファーがあったんですよね。ただ、やっぱりもうちょっとやりたかったですよね。でもシゲさんは最近、編集のほうが楽しそうです(笑)。
30周年記念ライブはインディーズ時代の楽曲+最新作という構成でしたし、現在開催中の関東サーキットは過去ツアーの再現ツアーだったり、アーティストは一般の人よりも自身の過去を振り返る機会が多いと思うのですが、良い面はありますか?
重盛
誰でもそうですけど、過去があるから今があるので、その一歩一歩を覚えているというのは楽しいですよね。年を取ってからわかることがほとんどじゃないですか。そういうことの確認とか、自分のためになる受け取り方ができれば、素晴らしいことだと思います。だから、どんな人も自分自身の振り返りはやったほうがいいと思いますね。あの時、あんなことを考えていたなぁとか、ガキだったなぁ、捻くれていたなぁとか(笑)。反省のほうが多いでしょうけど、その時はその時で一生懸命だったわけですしね。
インタビュー後編では、人生のターニングポイント、60歳を目前にした現在の心境などを伺います。
後編記事はこちら→ サウンドプロデューサー重盛美晴インタビュー【後編】60歳を目前に思う「楽が一番」
ライブ情報
PENICILLIN 30th anniversary 関東サーキット2022「The Time Machine」
- 4月2日(土)新横浜NEW SIDE BEACH!!
- 4月16日(土)HEAVEN’S ROCKさいたま新都心VJ-3
- 4月17日(日)柏PALOOZA
- 4月23日(土)東京キネマ倶楽部
※全公演、生配信あり