かっこよい人

昭和はなぜあんなに心地よかったのか 好きを突き詰めこだわり抜いた平山雄の自宅を訪問

近年、“平成レトロ”や“昭和レトロ”といったリバイバルブームだ。世のなかはどんどん便利になり情報が溢れているのに、どうして私たちは過去に惹かれてしまうのだろうか。

今回は、平山雄さんをインタビュー。著者に『昭和ぐらしで令和を生きる』『昭和喫茶に魅せられて、819軒』『昭和遺産へ、巡礼1703景』(いずれも303BOOKS)などがあり、自宅もまるで昭和時代にタイムスリップしたかのようなこだわりを見せている。

本人いわく、「好きなことをしていたらこうなっただけ」とのこと。そんな平山さんが感じる“あのころ”の良さ、そしていまの時代とは。

平山 雄(ひらやま ゆう)
1968年、新宿生まれ。ブログ「昭和スポット巡り」を運営。訪れた昭和スポットは2200箇所以上。著書に『昭和ぐらしで令和を生きる』(303BOOKS)などがある。雑誌『Begin』で「令和に響く昭和のハナシ」を連載中。
目次

新しいものって本当に便利?

本日はよろしくお願いいたします。平山さんは昭和について発信活動をされてますが、ご職業はなんでしょうか?

平山雄(以下平山)
僕は個人で古物商をやらせてもらっています。並行して、昭和についての書籍を出版したり、ブログ ※1 で昭和スポットの発信をしたりしていますね。

※1)ブログ:昭和スポット巡り

今回はお家も拝見させていただきましたが、まるで昭和にタイムスリップしたような内装で驚きました。

平山
この家は築52年になるのですが、造りはまったく変わっていないんですよ。20年前に購入してからそのままで、リフォームはいっさいしていません。手を加えてしまうと本物じゃなくなってしまうので。

“本物”という部分にこだわっているんですね。

平山
そうですね。最近は“レトロ風”とか“復刻”というワードもよく聞きますが、僕はそういったものより本物のよさにこだわりたいです。インテリアも、入居した最初の3か月ほどでほぼ完成しました。そこからとくに模様替えもしていません。性格上、変化するのがあまり好きじゃないんですよ。

だからこそ、テクノロジーやネットが発達する前のものを愛しているのでしょうか?

平山
そうですね。音楽プレイヤーとかスマートフォンとかが嫌いというわけではないんです。なんというか、状況が変わるのがあまり好きではないんですよね。いまの技術なら携帯で音楽を聞くことはできますが、レコードプレイヤーで聞けるならそれでいい。自分が不自由を感じていないのであれば、別に新しいものに切り替える必要はないかなと思っています。

 現代のものは便利さが追求された結果だとは思うのですが、小銭を払って切符を買ったり、針を落として音楽を聞くという行為は、目に見えて何がどうなっているかがわかるので安心するんです。僕が生まれ育った原風景のなかにあったことなので、落ち着くのかもしれませんね。昔のものは機能性もいい意味でそこまでないので、操作もシンプルで覚えるのが楽なんです(笑)。

たしかに昔のものは操作や機能がシンプルで、使う側の負担もないかもしれないですね。

平山
この家にあるものは、ただ昭和のものだからなんでも集めたというわけではなくて、自分が使って心地いいと感じるものを揃えた結果、こうなったという感じですね。

情報が限定された“あのころ”に生まれた文化

部屋に置いてあるものについてお伺いしたいのですが、選ぶ基準みたいなものはあるのでしょうか?

平山
そうですね……。好きとか懐かしいということよりも、部屋にマッチするものかどうかを優先して選ぶように気をつけています。だから昔実際に使っていたものもあれば、部屋に合うだろうと思って探したものも混在しています。共通して言えるこだわりは、本当にその時代に存在していた本物しか置いていないということですね。

たとえばこのステレオは1972年に親が購入したものになるのですが、実家に置いてあると捨てられてしまいそうだったので、この家に持ってきました(笑)。あとは仕事で出会ったものだったり、リサイクルショップで購入したものを置いていますね。

こちらのテレビも素敵ですね。

平山
このテレビは外側が昭和30年代のもので、なかに80年代のテレビを埋め込んでいます。上に置いてあるのは、ポータブルレコードプレイヤーです。小さいころに実際に使っていて、大人になってから同じものを見つけたんですよ。たしか昭和40年ごろのものだと思います。自宅に置いてある電化製品は、基本的にいまも使えるものしか置いてませんね。

このなかでも、とくに思い入れのあるものはありますか?

平山
この人形です。一見黒人にも見えるのですが、これは経年劣化して色が黒くなってしまっているだけなんです。2歳のときに大きな病気にかかって、入院したことがあるんですけど、そのときお袋が見舞いでこの人形を買ってきてくれたんですよ。僕が所有しているもののなかで1番付き合いが長いので、なんだかずっと一緒に生きてきたような気がしますね(笑)。20歳のころから、引っ越しのたびに持ち歩いてました。

素敵な思い出ですね。

平山
この人形は違うのですが、昔は外国人がモチーフになった人形やグッズがたくさん出回っていました。当時は、いまほど外国人がいなかったからでしょうね。僕が小さいころは、外人を見ると「今日外人見たよ」と話題に上がるほど珍しかったんです。昔はいまよりも、外国人の存在は珍しく、距離が遠い存在だったんだと思います。

そんな時代背景が反映されているのも、昔の品物のおもしろさのように感じます。

平山
それでいうと、昔はタンスの上によくこういった飾り棚がありましたね。いまはこんなふうに洋服タンスの上にガラス窓が取り付けられているものってあまりないと思うのですが、昔はどこの家庭にもあったんですよ。このなかに、旅行先のお土産とかを飾るのが定番でした。

あとは、生活のありとあらゆる知識が記載されている百科事典なんかもよく置いてありましたよね。実際ちゃんと読んでいたかどうかはわかりませんが(笑)。みんなとりあえず百科事典を揃えて、本棚に置いていたような気がします。昭和の時代って、意外と皆型にハマったことをしたがっていたような気がします。

おもしろい文化ですね(笑)。

平山
おそらく、いまほどネットが発達していなかったからだと思います。取捨選択をするほど情報がなかったんです。だから、みんな同じことをする風潮があったのかもしれませんね。芸能人がいたら集まったり、マクドナルドが開店したと聞いたらみんなそこに押し寄せたりして……。

それもまた、現代にはないワクワク感や楽しさのように感じます。

平山
いまは手に入れたいものがあればネットであっという間に手に入れられるし、知りたい情報は、検索をしたらすぐ出てきますからね。何かを手に入れるまでのプロセス自体があまりないというか。苦労して手に入れた感動みたいなものがどんどん薄れているような気もします。昔は「あの曲を聞きたいな」と思ったらレコード屋をハシゴしてやっと見つけて、家に帰って針を落として聞くじゃないですか。それだけでひとつの話になりますよね。

いまは便利ではあるけど、たしかにそういった感動はないかもしれません。

平山
そういった感動が得られる場面が徐々になくなってしまった。それが少し味気ないなと感じています。音楽は手に残るかたちの方が、その時代の人たちのエネルギーや情熱みたいなものが伝わると思うんです。

なくなってしまったからこそ価値が出る情報

平山さんは、ブログでも昭和時代について発信をしていますよね。

平山
『昭和スポット巡り』というブログを運営しているのですが、開設したのは12年前になります。昔のお店や観光地を掲載しているのですが、ブログにする前からそういうところを巡るのが好きだったんです。でもせっかく巡っているなら、ブログというかたちで残そうかなと。始めた当初はグルメサイトなんかもあまりなかった時代なので、自力で歩いて探すしかなかったんですよ。あてもなく練り歩いて、見つけたら載せる。その繰り返しでした。

それは大変ですね……。

平山
いえ、楽しいですよ。先ほどの話じゃないですけど、手に入れるまでの過程も楽しんでいるという感じです。事前に調べて回る方法もありますが、行き当たりばったりの出会いの方が、僕はどちらかというと楽しいんです。いまはネットにだいたいの場所は記載されていますが、それでもたまにどこにも載っていない場所やお店と出会うこともあるんです。
あとおもしろいことに、僕のブログの読者は20代と30代が8割を占めているんですよ。

そうなんですか⁉︎ それは意外ですね。

平山
僕も意外です(笑)。始めたときは僕と同世代の人に懐かしんでもらえるかなと思って更新していたんですけど、なぜか若い世代にウケちゃって(笑)。でも最近は昔からやっている喫茶店に行くと、若い方もかなり来ていますよね。タバコを吸いながら競馬新聞を読んでるおじさんの横で、写真を撮っている若い子もいるという不思議な状況になっています。昔、喫茶店は若い女の子が来るような場所じゃなかったんですけどね……(笑)。

そうなんですか? 私もよく喫茶店に行きますが、昔は違ったのでしょうか。

平山
喫茶店のイメージはかなり変化したと思います。昔はなんというか、ちょっと薄暗いバーみたいな雰囲気のお店が多かったです。いまでもそういう喫茶店は残っていますが、昔は入るのが少し怖かったです(笑)。ドアを開けたら何が待っているかわからないような雰囲気が“喫茶店”という場所のイメージでした。

いまはだいぶ健全な場所になりましたよね。昔は「同伴喫茶」とか「ノーパン喫茶」みたいな風俗寄りなお店も多くて、不良の溜まり場にもなっていました。ボックス席に仕切りがあったり、床が高級感のある絨毯になっているのは、そういった時代背景の名残なんですよ。

そうだったんですね。平山さんは『昭和喫茶に魅せられて、819軒』という書籍も出されていますが、実際に819軒の喫茶店を訪れたということでしょうか……?

平山
もちろんです。819軒は12年前に記録を取り始めてからの件数なので、実際にはそれ以上訪ねています。書籍にする際は、閉業してしまった店を除き、記事を書いたすべてのお店にご連絡させていただきました。

それは大変ですね……(笑)。

平山
さすがに大変でした(笑)。お電話がつながらないお店があったときは自分の足でお伺いして、掲載許可をいただきました。でも、実はこの本に載っているお店の4分の1~3分の1くらいはもう閉店してしまっているんです。それでも、内装が素晴らしかったりするので紹介させていただいたのですが。

そんなに閉まっているんですね。

平山
そうですね。悲しいですが、だからこそ記録を残しておいてよかったと思っています。こういったブログや本が本領を発揮するのは、書き記したものがこの世からなくなってしまったあとからだと思うので。僕がやってきたことに少しは価値があったのかな、といまは感じています。

貴重な建造物などは残り続けたりするのですが、昭和30年~50年代ごろの庶民的なお店や建物は、建て替えられてしまうので残していくのが難しいじゃないですか。だから僕が発信することによって、「その時代っていいな」と思う人が増えれば、その時代の建物を少しでも残せるようになるんじゃないかと思っています。

最後に、これからの展望について教えてください。

平山
改めて挙げることはないのですが、好きなことを続けていたら、それに沿った出会いやお話が自然と生まれてくると思うんです。実際、いままでの人生もそんな感じで来たので楽観的に考えているのですが(笑)。自分から働きかけるというよりは、求められたことに応じて応えていくだけという感じですね。だからこれからも好きなことをやりたいように続けていこうかなと思います。

平山さんは、“好きなことをして生きる”をまさに体現したような方だった。そしてその生き方をとても自然に体現している。意地になって現代の流れに逆行しているというわけではまったくなく、時代の流れを横目に見ながら、自分の愛すべきものを優しく、丁寧に、そばに置いているような方だった。時代の流れは止められるものではないが、好きな気持ちを持ち続け愛するからこそ、人生はおもしろい。私がずっと好きでそばに置いておきたいものは、果たしてなんなのだろうか?

平山 雄さんの著作

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  • 著者: 平山 雄
  • 編集:石黒 謙吾
  • 出版社:303BOOKS
  • 発売日:2021年1月18日
  • 定価:1,650円(税込)

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取材・文=はるまきもえ

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